Vol.12 敵?いや、味方? ロックな刺繍屋さん
2014年04月24日
【written by 馬場容子(ばば・ようこ)】東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。
【最近の私】 夏がやってきた!市場にはマンゴーをはじめ色鮮やかなフルーツが並び、道端にはブーゲンビリアが咲き誇っています。そんな盛り上がる季節の中、私はプールでリハビリ特訓中。
チェンマイは、モノづくりの街でもあり、たくさんの手工芸品があります。木彫り、シルバー、陶芸、布など、モノづくりが大好きな人には飽きない街でしょう。さて、私もここに住み始めてからモノづくりに関わるコーディネートのお仕事の依頼をいただくことがあります。先日、久しぶりに刺繍のオーダーをコーディネートする仕事がきました。
刺繍の作業は専門店に発注します。お付き合いのある刺繍屋さんは、タトウーを入れた、革ジャンが似合いそうなイマドキのお兄ちゃんがやっている小さなお店です。昔ながらの市場にお店を構えていますが、店内の床にはモノトーンのタイルが敷き詰められ、バイクが展示してあるなど、市場の中ではモダンな感じ。働き者の奥さんとお母さんは、毎日朝から店頭でジュースを販売し、親戚の叔父さんは、隣の一角でバイクの修理をやっているというまさに家族経営。
しかし、このお兄ちゃんは家族の中ではどうも怠け者らしく、午前中お店は大抵閉まっています。午後に訪ねても奥さんに叩き起こされて寝ぐせがついたまま出てくることもしばしば。そんな相手ですから今回のオーダーを依頼するか悩みに悩みましたが、小ロットの依頼を受けてくれるところはなかなかなく、急ぎの仕事だし、刺繍の型を持っているという利点もあるため、不安を抱えながらもお兄ちゃんに発注することに・・・。
そう、ここからお兄ちゃんとの闘いが始まるのです!
美しい山岳民族の手刺繍
■第1ラウンド: わかりやすいウソ
さて、縫製の進行スケジュールを立てながら、久しぶりにお兄ちゃんに電話をしました。数年ぶりに話すお兄ちゃんは、開口一番「もちろんオッケー! じゃぁ、明日の1時にね!」と、かつてのやる気のなさがウソのようにとてもアクティブな様子。ようやく仕事に打ち込むようになったんだなぁと感心したのもつかの間、次の日にはもう電話はつながらず・・・。大丈夫かなぁと嫌な予感を覚えながら、お店に行くと悪い予感は的中!
ジュースを作りながらお母さんが、「今は出かけていないから、また出直してね」と、やんわりと門前払い。しかしわざわざ車で30分かけて来たのだから、簡単には引き下がれません。「1時に約束をしてるので待ちます」と、私。最初のうちは申し訳ないと思っていた様子のお母さんも、帰ろうとしない私に「刺繍の機械が壊れて直しに行ってるんだからしょうがないだろう」と逆ギレ気味に。
まぁ、機械が故障という明らかなウソをそのまま信じるほど、私ももはやチェンマイ初心者ではありません。ここは知らんぷり。真に受けると、それを理由にずっと待たされることになるのです。ということで、しばらく粘っていると、奥さんがやってきて渋々オーダーを受けてくれました。というわけで、第1ラウンド終了。
こんなブックカバーも作りました。
■第2ラウンド: ドタキャン!!
数日してお兄ちゃんの奥さんから「仕上がったので明日取りに来て」と電話がありました。お願いしたよりもすでに1日遅れですが、それはチェンマイでは許容範囲。訪ねてまた「不在だ」と言われるのを防ぐため、奥さんに何度も「1時ね!」と念をし、電話を切りました。
次の日の12時40分。店に向かっている時、携帯電話が鳴りました。お兄ちゃんのお母さんからです。なんと、「今日は来なくていい」。「そう言われても、もう到着してるのでそういうわけにはいかない」と告げると、お母さんは「仲介に入りたくないから直接電話して!」といきなり電話を切ってしまいました。
渋々電話したところで、お兄ちゃんはもちろん電話に出ず・・・。しょうがないのでお母さんと奥さんに会いに行くと、さすがにしょんぼりした私を見て「私たちも頭に来てるのよ。ちゃんと叱っておくから」。この闘い、いつ終わるのだろう・・・。
■第3ラウンド: やっぱり憎めない!?
その日の夕方のこと。誰にでもいいから当たり散らしたいという怒りのオーラを発しながら次のスケジュールを練っていると、お兄ちゃんから電話が来ました。「今日の夜、出来上がったら僕が家まで届けるから、家の場所を教えてよ」。
(なんとまぁ、まだ刺繍が出来てなかったんだぁ)という呆れた気持ちと、(わざわざ持って来るなんてちょっと健気...)という思いが同時に湧き上がって、とにかく意表を突かれました。やっぱりどこか憎めないお兄ちゃんです。受け取りは家ではなく、お互いにわかりやすい場所を指定しました。
その夜、「着いたよ!」と待ち合わせの場所から電話がありました。それでもまた来ないのかもなどと疑いながら、到着。すると・・・お兄ちゃんが手を振って待っていました。「あー、よかったー!ところで刺繍は?」と見せてもらうと、一応綺麗にできていました。
が、ホッと胸をなでおろしたのもつかの間。手渡された請求書の価格がなんと以前に同じ依頼をした時の1.8倍に。
「高すぎ・・・」。
「うん、最近物価が上がってるからね。前の値段じゃできないよ。でも、いいよ。少し下げてあげる」。
あっさり値引きに応じてくれたお兄ちゃん。やっぱりビジネスには向かないようです。
さて、この勝負は引き分け!?
いやいや、やっぱりお兄ちゃんペースに巻き込まれたような・・・。若干の敗北感(泣)。次は他の刺繍屋さんに頼もうと心に決めたのでした。
夏真っ盛り!プールに咲くプルメリア