【悪役を語るコラム】その男、凶暴につき。
ハビエル・バルデムin『ノーカントリー』
2012年06月14日
【written by 鈴木純一(すずき・じゅんいち)】映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。【最近の私】『96時間』を観て以来、リーアム・ニーソンに注目しています。『特攻野郎AチームTHE MOVIE』『アンノウン』でも"戦うオジさん"を熱演しています。自分もあんなオジさんになりたい。8月公開の『THE GREY 凍える太陽』にも期待しています。
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映画で魅力的な悪役は、印象的なビジュアルを持つキャラクターが多い。『スター・ウォーズ』で黒いマスクを被ったダース・ベイダー、『13日の金曜日』でアイスホッケーのマスクを付けたジェイソン。そして『ダークナイト』でピエロのようなメイクをほどこしたジョーカー。しかし、メイクやマスクをしなくても強烈な印象を残す悪党も存在する。それが今回紹介する『ノーカントリー』でハビエル・バルデムが演じた殺し屋、シガーだ。
ギャングの金を奪った男(ジョシュ・ブローリン)を追うシガーは、ギョロ目で岩石のようなゴツゴツした顔面をしている。しかし、何といっても強烈なのは髪型だ。おかっぱ頭を七三分けにした、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎みたいなヘアースタイルである。『ノーカントリー』を観る前に、ハビエルの写真を見て「変な髪型だなあ」と思っていたのですが、実際に映画を観た後には、「おかっぱは"変"ではなく"怖い"」と考えを改めました。
そんな怖いおかっぱ男のシガーは、作品冒頭で保安官を絞殺する。その時のシガーの表情がまた怖い。目をむいて、歯をくいしばる形相はまさに"鬼"。夢に出そうです。そして彼の怖さの極めつけは、武器として持つボルトガンだ。ボルトガンは、圧縮した空気でボルトを打ち出すという妙な銃なのだが、こんな変な武器はほかの映画では見たことがありません。この銃を標的の人間に向け、容赦なく「バシュ!」と頭を打ち抜く。こうしてシガーは行く先々で情け無用に人々の命を奪うのだ。
この映画で、シガーは冷酷にひたすら標的を追い続ける。その姿は『ターミネーター』でアーノルド・シュワルツネッガーが演じた、殺人サイボーグのようだ。それだけでなく、シガーはボルトガンを手に怪獣のように暴れる。狙った相手は逃さない。だから、いっそう怖い。髪型、表情、そして武器を味方に、オリジナリティーあふれる悪党を演じたハビエルは、本作でアカデミー賞の助演男優賞を獲得。あれだけ見る者に恐怖を与えたのだから、受賞も納得だ。存在感で言えば、主役といってもいいぐらいです。
なお、ハビエルはジェームズ・ボンドの新作『007 スカイフォール』で再び悪役を演じるという。どんな悪役ぶりを見せてくれるのか、大いに楽しみである。