【悪役を語るコラム】自分だって絶対に死にません!
カート・ラッセルin 『デス・プルーフinグラインドハウス』
2013年12月13日
【written by 鈴木純一(すずき・じゅんいち)】映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。【最近の私】「中子真治 SF映画評集成」を買いました。80年代のSF・ホラー映画に夢中になった自分には、夢の本です。年末年始に読みます。
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1991年に放送された大ヒットドラマ『101回目のプロポーズ』。武田鉄矢演じる星野達郎の「僕は絶対に死にません!あなたが好きだから」というセリフは、知っている人も多いだろう。事故で婚約者を失った最愛の人を安心させたいがために、走ってくるダンプカーの前に飛び出し、この言葉を叫ぶ。愛は男を不死身にし、女はそれに惹かれた。しかし、不死身の男はいいヤツばかりとは限らない。今回は不死身の悪役、『デス・プルーフinグラインドハウス』に登場した、カート・ラッセルを紹介したい。
この作品でカートが演じたのはスタントマン・マイク。マイクは映画やドラマのスタントマンをしている。だから名前も「スタントマン・マイク」。分かりやすい名前だ。一見、陽気で優しそうな男だが、彼にはもうひとつの顔があった。実はその正体は、女性を狙う殺人犯だったのだ!
マイクはバーで知り合った女性を、言葉巧みに自分の車で送ると誘う。しかし、彼が乗るシボレーは耐死仕様(デス・プルーフ)。耐死仕様とは、スタントマンが負傷しないように内部を強化した特別仕様車である。だが、助手席はガラス張り。マイクは女性に言う。「この車は耐死仕様だが、死なないのは運転席に座る俺だけなんだよ」。
爆走する彼のシボレー。さっきまでのナイスガイから一転して、残酷な感情をむき出しにするマイク。彼はスタントマンならではの技術を操って車をジグザグ走行し、急ブレーキをかける。助手席の女性は、ガラスに全身をぶつけて血まみれ。そして最後は頭部を強打して絶命する。『13日の金曜日』のジェイソンが斧やナイフを持って殺人をしたように、マイクは特別使用の車を凶器にして、獲物を狩るのだ。恐るべきデス・プルーフ。この映画でのマイクは、まるでホラー映画の殺人鬼だ。
それから14ヵ月後。マイクは新しい獲物を追いかけていた。それは映画のスタントを務める女性やメイクアップ係、若手女優から成る"映画女子"グループ。このガールズたちが車でドライブしている時に、マイクの牙が再び襲いかかるのだ!しかし、彼女たちは以前殺された女性たちとは違い、反撃を始める。対するマイクも攻撃の手を緩めることなく...と思いきや、彼は銃で腕を撃たれてしまい、様子が一変。「やばいよ。どうしよう」といきなりオロオロしだす。そして女子たちに車で追いかけられると「ごめんなさい!悪気はなかったんです」と謝罪。殺人鬼から弱気な男への急展開は、見ていて「悪気がないなんて言い訳になるか!」とツッコミを入れたくなる爆笑場面だ。この後は衝撃的(笑激的)な展開になり、"The End"を迎える。
普段はタフなキャラを演じているカート・ラッセルが、この作品ではクエンティン・タランティーノ監督の手にかかり、異様な悪党に扮している。その様子を味わっていただきたいです。