【悪役を語るコラム】未来からやってきた無敵のサイボーグ!T-1000 in『ターミネーター2』
2014年02月13日
【written by 鈴木純一(すずき・じゅんいち)】映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。【最近の私】俳優フィリップ・シーモア・ホフマンが亡くなりました。46歳の若さでの死去は早すぎで、残念です。
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『ダイ・ハード』や『リーサル・ウェポン』など、ヒットしたアクション映画の続編を作る場合、前作をしのぐ悪役キャラクターをひねり出すことがヒットの重要なカギとなる。そして製作者たちは、あれこれと知恵を絞り、新しいキャラクターを生み出す。今回は、「より強い悪役」として登場した『ターミネーター2』のサイボーグT-1000を紹介したい。
『ターミネーター』(1984年)でジェームズ・キャメロン監督は、未来から現代に送られてきた殺人サイボーグのターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー、以下シュワと略す)と人間の戦いを描いた。シュワが、何度撃たれても起き上がる不死身のキャラクター、ターミネーターに扮して観る者を引き込んだ。そしてキャメロン監督が引き続きメガフォンを取った続編でも、再びターミネーターが未来から送り込まれてくる。しかも今度は2体。うち1体のシュワが演じるターミネーターは、人類を守るようにインプットされている善のサイボーグだ。一方、もう1体の新型ターミネーターT-1000(ロバート・パトリック)は、人類を滅亡させるべく、送り込まれてきた悪役。こうして『ターミネーター2』では、新旧の不死身のターミネーターが戦いを繰り広げるのだ。
第1作目でのターミネーターは、演じたシュワが元ボディビルダーなので、ヘビー級の体格で迫力があった。それに比べて、T-1000は痩身である。初めて『ターミネーター2』を観た時、「こんな華奢な悪役で、シュワと勝負になるのか?」と思った。しかし外見で判断してはいけません。T-1000はシュワにも負けないパワー、そして俊敏さを備えていた。走るのが早く、車で逃げるシュワを走って追いかける姿はアスリートのようである。肉体派のシュワに対抗させて、まったく違う外見の悪役を設定した点が、続編の成功のカギにもなっているのかもしれない。
また、T-1000は旧型にはない性能をそなえている。それは自分の姿を自由に変えられること。体が液体金属で出来ており、男性や女性を問わず、誰にでもそっくりに変身できるのだ。未来から来たT-1000は、まず警官を殺害して彼になりすます。本来は人々を守るべきである警官が実は殺人マシーンなのは皮肉で面白いところ。そして、その後もT-1000はさまざまな人物となって登場するのである。
最初の『ターミネーター』では、人間そっくりのサイボーグが紛れているという設定が恐怖を煽っていた。続編では、外見を誰にでも変えられるT-1000が誰に変身しているか分からない。その点が1作目以上の恐ろしさをかもし出している。
さらに、T-1000は変身するだけではない。破壊されても元に戻ることができるのだ。いくらショットガンで頭や体に穴を開けても、グニャリと元の状態に戻ってしまう。液体金属って、どんな構造なのかとツッコミを入れたくなるほどだ。『ターミネーター2』が公開された1991年、この液体金属のCGが話題となった。同じキャメロン監督の『アビス』(1989年)では、水を自由に操る生命体が登場したが、その"水"をCGで表現した技術を、本作では金属に発展させたといえる。このCG技術があったからこそ、この悪役は生まれたのだ。
第1作目で、執拗に人類を滅亡させようと殺戮を繰り広げたターミネーター。続編では新しい性能を持つターミネーターを登場させた。これにより、T-1000は前作をしのぐ悪役として、この映画で強烈な印象を残すキャラクターとなったのだ。