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【悪役を語るコラム】この悪役を偲ぶ
フィリップ・シーモア・ホフマンin 『M:i:Ⅲ』

2014年04月16日

written by 鈴木純一(すずき・じゅんいち)】映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。

【最近の私】イラストレーターの安西水丸さんが亡くなりました。安西さんが「キネマ旬報」で連載していた映画コラムがもう読めないのが残念です。

今年の2月、俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンが亡くなった。46歳の若さだった。彼はこれまで多彩なキャラクターを演じている。『マグノリア』の心優しい介護士、『レッド・ドラゴン』の殺人犯に狙われる記者、『あの頃ペニー・レインと』のロック評論家。そして『カポーティ』では実在の作家カポーティを演じてアカデミー主演男優賞を獲得する。今回は、彼が出演した数多くの映画の中から『M:i:Ⅲ』で演じた悪役を紹介したい。

M:i:Ⅲ』はトム・クルーズ主演のアクション映画『ミッション・インポッシブル』シリーズの3作目。本作でフィリップが演じたのは武器や情報をさまざまな国に売るブラックマーケットの商人、ディヴィアンだ。

アメリカのスパイ組織「IMF」の優秀なエージェントだったが、現在はスパイを引退し、IMFで教官を務めているイーサン・ハント(トム・クルーズ)。しかし、彼の教え子で、ディヴィアンの組織に潜入していた女性エージェントが殺されたことから、イーサンは現場に復帰し、ディヴィアンを捕らえることに成功する。イーサンは「お前がどんな物を誰に売っているのか言うんだ」とディヴィアンを問い詰めるが、彼はイーサンの質問には一切答えず、「お前に女房か恋人はいるか?俺がどうするか分かるか。お前の女が誰であれ、見つけだして痛めつける。女は血を流し、お前の名を呼ぶ。だがお前は何もできない。お前も虫の息だからだ。彼女の前でお前を殺す」と話す。捕まっている身のディヴィアンが逆にイーサンを追い詰めていく。さらに「以前もお前の部下を殺したが、あれは余興みたいなものだ。まあ楽しめたけどな。俺が誰に何を売ったかよりも、お前は心配することがあるだろ」とイーサンの怒りと恐怖心を煽る。心理的に相手より優位に立とうとするディヴィアンの話し方が、本当に憎たらしいのだ。

その後、イーサンたちはディヴィアンを護送することになるが、彼の部下たちの攻撃を受け、ディヴィアンを奪還されてしまう。その攻撃にはミサイルを撃つ無人飛行機や、銃火器を持った部下たちが乗ったヘリコプターまで登場し、もはや軍隊みたいである。ディヴィアンって、どうしてそんな力を持っているの? と言いたくなるぐらいだ。

ついにはイーサンの妻も誘拐されてしまう。イーサンは1人でディヴィアンと取引に向かう。しかし、今度はイーサンが捕まり、頭に爆弾を埋め込まれてしまう。常に相手の先手を行くディヴィアンに、イーサンはどのように戦うのか。この結末は本編を観ていただきたい。

ホフマンには、もっと悪役を演じてほしかった。しかし、それはもうかなわぬ夢だ。もう彼が出演する新作をスクリーンで観られないのが、本当に残念である。