今週の1本

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2007年6月 アーカイブ

Vol.8 『ダークマン』 by 石井 清猛

例えば週末に『スパイダーマン3』を観にいこうとしていて、今晩あたり"1"か"2"を借りて復習しておこうと思って地元のレンタルビデオに寄ってみると、どちらも全部レンタル中。そんな時にも途方に暮れたり、やり場のない怒りを抱えて店内をうろついたりする必要はありません。ゆっくりと周りの棚を見回しサム・ライミ監督のコーナーを見つけ、そこから『ダークマン』を抜き取ってレジに持っていけばいいのです。

スプラッター映画の金字塔『死霊のはらわた』シリーズとスラップスティック映画の異色作『XYZマーダーズ』で、すでにカルト的な人気を獲得していたライミ監督がファン層をさらに広げるきっかけとなった作品が、この『ダークマン』。『スパイダーマン』のプロトタイプ的な作品とも評されている傑作アクションです。

アメコミ映画がすでに注目を集め始めていた当時、コミックフリークとしても有名なライミ監督が発表したのがこの独創的なオリジナルのヒーロー映画でした。ただし同じヒーロー物でも、作品の印象は『スパイダーマン』シリーズとはかなり異なっています。

2つの作品世界の違いは、製作費の桁の違いからくるものではなく、映画のスタイルによるものです。『ダークマン』の様式的な演出やマット合成を多用した特殊効果、そして説明的なシーンを極力排除したスピーディなストーリー展開は、ヒッチコックを始めとするハリウッド・クラシックへのオマージュを感じさせます。オープニングのギャング同士の銃撃戦は、緊張感のあるアクションの中に独特のユーモアが織り交ぜられたこの映画の名シーンの1つです。

もちろん、共通点も忘れるわけにはいきません。およそヒーローらしくなく常に自分の存在意義について悩む主人公。リーアム・ニーソン(ダークマン)の姿に、トビー・マグワイア(スパイダーマン)が重なります。また、挫折した科学者の復讐というテーマは、『スパイダーマン』では悪役のグリーン・ゴブリンやドック・オクに引き継がれおり、その辺りが『ダークマン』が"裏スパイダーマン"といわれる所以でもあります。

スパイダーマンが空中を落下するメリー・ジェーンを助ける時、画面を滑らかに移動するその姿は映画的な魅力に満ちています。『ダークマン』を見た人なら、ライミ監督がその動きの美しさをずっと前から知っていたと分かるはずです。『ダークマン』のクライマックス、高層ビル建設現場での闘いは、要チェックです!


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『ダークマン』
製作: ロバート・タパート
原案: サム・ライミ
脚本: サム・ライミほか
音楽: ダニー・エルフマン
製作年: 1990年
製作国: アメリカ
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Vol.9 『ノース・ショア』 by 浅野 一郎

皆さんも、一度は映画の主人公に憧れたことがあるのではないでしょうか?私も子供の頃、『タワーリング・インフェルノ』を観て消防士に、『ダーティ・ハリー』や『ブリット』を観て警官に憧れたものです。そんな中、実際に、私に憧れを実現させるための行動を起こさせたのが『ノース・ショア』です。

『ノース・ショア』はノース・ショアでサーフィンすることを夢見て、アリゾナからハワイに単身乗り込んだ青年が真の愛を知り、真のサーファー(ソウル・サーファー)へと成長する物語。映画の舞台となっているノース・ショアは、ハワイ州オアフ島にある、言わずと知れたサーフィンのメッカ。サンセット、ワイメア、パイプラインなどのポイントが有名です。シーズンになると20フィート(約6メートル!)の波が押し寄せ、世界中のビッグウェーブ・サーファーを魅了します。

私はこの映画を観たのがきっかけで、サーファーになりました。いつか、映画の主人公のようにビッグ・ウェーブに乗れるようになりたいと思いながら、夏場は特に、学校をサボって毎日のようにサーフィンばかりしていました...。夜中の2時に友達と合流。日の出までビーチで時間をつぶし、東の空に陽が昇ると同時に海に入り、そのまま正午までサーフィン三昧。まさに青春まっしぐら。人生で一番楽しかった時期かもしれません。

というわけで、『ノース・ショア』は、ある意味で私の人生を変えた映画です。今でも毎年、夏になるとビデオを観て、当時の生活を思い出します。今年もそろそろ、押入れの奥からビデオを引っ張り出す時期ですね。

ところで、私がこの映画を忘れられない理由がもう一つ。それは"字幕"のおかしさです。映画が公開されたのは1987年。当時の翻訳者は若者向けの青春映画だから、という理由で"ナウい"言葉をチョイスしたのだと思いますが、"それ イマいじゃん"、"アイツ とっぽいぜ"などの"死語"が連発されるのです。今、この作品を観ると苦笑を禁じえません。

翻訳者を目指す皆さんは、20年後に作品を観た視聴者に笑われないような言葉使い、誰が観ても分かる言葉選びを心がけてくださいね。


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『ノース・ショア』
出演: マット・アドラー 、グレゴリー・ハリソン、ニア・ピープルス、ジョン・フィルビン ほか
監督: ウィリアム・フェルプス
製作年: 1987年
製作国: アメリカ
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Vol.10 『ドリームガールズ』 by 柳原 須美子

『ドリームガールズ』 by 柳原 須美子

今回ご紹介したいのは、「アメリカン・アイドル」出身のジェニファー・ハドソンが出演した『ドリームガールズ』。時は1960年代、歌手を夢見る3人の女の子が新人オーディションに臨むところから物語はスタートします。オーディションには受からなかったものの、ショービジネスの世界に足を踏み入れることになった3人。そこで彼女たちを待ち受けていた過酷な現実や複雑な人間模様...、それらがすべて最高の音楽とともにテンポよく描かれています。

この映画を見て思ったのは"夢は色んな景色を見せてくれる"ということ。3人を襲った現実、それは初めに思い描いた"夢"とはかけ離れていたものだったことでしょう。しかし、3人はその現実の中で懸命に"進むべき道"を模索していました。全ては夢を見ることから始まる。そして、夢が見せてくれた景色を直視すれば、また新しい夢が見つかるのだと思いました。

"All you have to do is dream"―
この言葉にピンときた方、必見です。キラリ☆
(映画内で流れる曲の歌詞です)


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『ドリームガールズ』
出演: ビヨンセ・ノウルズ、ジェイミー・フォックス、エディ・マーフィ、ジェニファー・ハドソンほか
監督: ビル・コンドン
製作年: 2006年
製作国: アメリカ
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Vol.11 『オーシャンズ サーティーン』 by 藤田 彩乃

こんにちは、藤田彩乃です。先週、休暇で訪れたアメリカで、一足お先に『オーシャンズ13』を見てきましたので、紹介します。

今回の舞台は、第1弾『オーシャンズ11』に引き続き、再びラスベガス。"オーシャンズ"の一員ルーベンが、冷酷なホテル王ウィリー・バンクに裏切られたショックで心筋梗塞に倒れてしまいます。仲間思いな"オーシャンズ"の仲間たちは、その復讐を果たすべく再び集結し、バンクのホテルに乗り込みます。

6月8~10日の全米映画興行収入ランキングでは、『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』をおさえ、初登場首位に立った本作。最大の魅力は何と言っても俳優陣でしょう。ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、アンディ・ガルシア、アル・パチーノ...と主要キャストだけでも超豪華。素晴らしい役者の勢ぞろいです。「こんな豪華キャストをそろえて、出演者のギャラだけで総額いくらなんだ?」と思いきや、意外にも低予算。スティーブン・ソダーバーグ監督の人脈の広さと人柄の良さがなせるわざです。

前作『オーシャンズ12』では、強盗計画以外の描写が多く、正直ストーリーが分かりにくかったのですが、今回は盗みの一部始終にしっかり焦点が当たっていて『オーシャンズ11』のテイストとテンポが戻ってきています。やはりこの手のクライム・ムービーは余計なストーリーを混ぜ込まないほうがスッキリしていて面白いですね。随所に散りばめられたユーモアやギャグは必見。宿敵ベネディクトも参戦し、スリリングな展開も目が離せません。

ちなみに、アル・パチーノ演じるウィリー・バンクがオーナーの超高級ホテル"バンク"のテーマは、アジア。オープンセレモニー会場では宿泊客が酒で乾杯する中、力士が土俵入りします。最後のクレジットを見て気づいたのですが、その力士は曙と武蔵丸だった模様。やはり海外での日本文化への関心は高いようです。次回作があれば舞台は日本と噂されていますので期待しましょう。

日本公開は8月です。お楽しみに!


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『オーシャンズ サーティーン』
出演: ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、アル・パチーノ ほか
監督: スティーヴン・ソダーバーグ
製作年: 2007年
製作国: アメリカ
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