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vol.19 『パンズ・ラビリンス』 by杉田洋子


11月のテーマ:オモテとウラ

すっかり寒くなりましたね。冬が苦手な道産子、杉田です。
11月一発目の今回は、現在公開中のスペイン語映画
『パンズ・ラビリンス』をご紹介します。

"ダーク・ファンタジーの傑作"とうたわれるこの作品。
私は"ファンタジー"という言葉と、黄金色に輝く美しい広告(※)にどこか油断して映画館へ出かけました。でも実際に上映が終わってみると、私の体は硬直し、すぐに腰が抜けそうなほどの脱力感を覚えました。
見ている間中、"自分の裏側が誰かに見つかるんじゃないか"という恐怖に襲われていたのです。一口にファンタジーと言ってもその分類や定義は曖昧で多岐にわたるためここで深く考察はしませんが、実際にこの作品を見れば、"ダーク・ファンタジーとはこういうことか"、と妙に納得してしまうのではないかと思います。

舞台は第二次世界大戦が終結に向かう1944年のスペイン。内戦で勝利したフランコ将軍による軍事独裁政権と、反対勢力のゲリラとの闘争が続く混沌の世です。本が大好きな主人公の少女オフェリアの身にもその影響は深く浸透していました。父親を内戦で亡くした彼女は、母親の再婚相手であるビダル大尉のもとに引き取られることになります。大尉はフランコ側のゲリラ掃討を指揮する残忍な男でした。

主役はあくまでも子供のオフェリアですが、私はむしろ過酷な現実を生きる大人たちの人間模様に惹きつけられました。誰が敵で誰が味方かも分からぬ恐怖の中で、表と裏の顔を使い分け、命をつなぐ大人たち。従順な臣下として憎き勝者に仕えながら、内通者として命がけでゲリラを支援する。大人たちは、憎しみや悲しみを内にため、現実の中で表と裏を行き来します。

一方、子供であるオフェリアの裏の世界は、現実とは一線を画した幻想的な世界。幻想というと神秘的で美しいイメージがありますが、彼女が足を踏み入れた世界は、夢見がちな少女が描くおとぎの世界では済みません。その世界は時に現実以上に恐ろしくグロテスクにさえ映ります。その先に約束された美しく平和な世界を求め、少女は裏の世界でも恐怖に満ちた試練を体験することになるのです。
ギリギリまで追い詰められた人間たちは、まるで熟れた果実がはじけるように敵に腹を見せます。守り続けてきた裏側をさらけだして抵抗し、闘う覚悟を決める瞬間です。たとえそれが最初で最後の闘いになるとしても。その時が来るまで、表の自分はきれいな顔をして、必死に裏の自分をかばってる。世の中の真実は犠牲となった表の顔で埋め尽くされているけれど、個人の真実はいつも裏にあるのかもしれません。

最後に裏にちなんで「裏腹」という言葉の意味を調べてみたので、ここに記して結びとします。

裏腹
<背と腹、裏と表、の意>
(1)正反対な・こと(さま)。あべこべ。
「言うこととやることが裏腹だ」
(2)背中合わせ。となり合わせ。
「死と裏腹」

端的で奥深い言葉ですね。


※黄金色の画と作品情報はこちらでチェック!
「パンズ・ラビリンス」公式サイト
http://www.panslabyrinth.jp/
映画館から帰ったら、ファンタジーの定義を調べてみよう!

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 『パンズ・ラビリンス』
 出演: イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、
 マリベル・ベルドゥ 他
 監督・脚本: ギレルモ・デル・トロ
 製作年: 2006年
 製作国: メキシコ=スペイン=アメリカ
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