12月のテーマ:節目
私の頭の中には、たくさんの扉がある。それぞれの扉の向こうには、色んな年齢の私が潜んでいて、ことあるごとにピョンピョン飛び出してくる。風がピューっと吹けば"風の又三郎が来たかもしれないよ"と、小学生の頃の私が扉から顔を出してくるし、肉じゃがを食べようとすると"早くしないと、お肉がなくなっちゃうよ!"と、ここでもまた、小学生の頃の私が登場してくる。つまり、私はいつだって1歳であり2歳であり、10歳であり15歳である。どの年齢の私も、私の中でずっと生き続けている...ような気がしている。
『赤い風船』を見た。ジャン・コクトーが"妖精の出てこない妖精の話"と評した短編フランス映画だ。物語は、少年パスカルが街灯に結ばれた風船と出会うところから始まる。パスカルは風船のヒモを握り、いつもと同じように学校に向かう。しかし、風船と一緒にバスに乗ろうとしたら、車掌さんに乗車を断られてしまう。パスカルはバスには乗らず、学校まで走っていくことに。なぜって、それはもちろん、パスカルは風船を手放したくなかったから。風船を大切に想う気持ちとともに、パスカルの日常は少しずつ変化していく。遂には、ヒモを握らなくても、パスカルの後ろには必ず風船が付いてくるようになる。
この作品には、ほとんどセリフがない。そこにパリがあってパスカルがいて、パスカルの後ろには赤い風船が漂っている。それだけだ。ストーリーは具体的な言葉で語られることなく、ただ、スクリーンに映し出される。そのせいか、作品をあえて言葉で説明をすることに、妙な違和感を覚えてしまう。でも、こういう説明だったら何とかしっくりくる。これは"切なくて嬉しくて悲しくて楽しい"映画だ。頭の中にいる5歳児の私が、扉をバーンと開けてダンスをし始めるような、そんな映画だ。
今年も慌しく過ぎていった。でも、私はとってもラッキーだ。ピンチに陥った時はいつも、誰かが、何かが、映画が、音楽がそこにいてくれて、感謝すべきことに気づかせてくれた。そしてこの年末、私は『赤い風船』と出会えた。私は、頭の中にいる5歳児の私との再会を楽しみながら、何回も何回も"ありがとう"と言った。
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『赤い風船』
監督:アルベール・ラモリス
出演:パスカル・ラモリス
製作年:1956年
製作国:フランス
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