3月のテーマ:出会い
"朝に嗅ぐナパームの匂いは格別だ"
『地獄の黙示録』で、ロバート・デュヴァル扮するキルゴア中佐が、敵兵の潜むジャングルを焼き払った際に言った名セリフだ。僕が、この映画を観たのは小学生の頃だったと思うが、幼い僕の心には鮮烈な印象が残された。とはいっても、映画の内容などよく分かっていなかったし(ちなみに、いま観てもよく分からない...。)、映画そのものに感銘を受けたわけではない(ちなみに、それは今でも同じ...。)
僕の心を捉えたのは、ズバリ音楽だ。
キルゴア中佐率いる武装ヘリ師団が敵の村へ向かい、攻撃を仕掛けるシーンで、僕はワグナーの「ワルキューレの騎行」に出会った。この曲が流れてきた瞬間、僕は急いでラジカセを持ってきて、テレビから流れてくる音を必死に録音し、その後、文字通りテープが切れるまで聞き込んだ。クラシックの荘厳な曲調に乗せて、眼下に広がる海岸線を抜けて敵に向かって突進する無数の武装ヘリ...。そのシーンの意味することなど何も分からなかったが、聴くたびに情景を思い出し、胸を躍らせていたものだ。
つくづく、映画と音楽の相乗効果には驚かされる。
たとえば、カヴァレリア・ルスティカーナを聞けば、『ゴッドファーザーPART III』のラスト、陽の当たる道を歩きたいと願い、必死に這い上がろうとしたものの、ついに果たせなかった男が迎える哀しい人生の終末がまざまざと頭に浮かぶし、『ジョーズ』のテーマを聞けば、何か禍々しい事態が近づいていることを連想する。
最近、映画を観て、こんな経験をすることが、あまりにも少ない気がする。それは、サントラ音楽の選定に主な原因があるのではないかと思う。ロックやポップスをサントラに使うのが、最近ではすっかり定番になっているが、たいていの場合、映像との相乗効果が得られないのだ。ほんの一例だが、『ブラックホーク・ダウン』でも武装ヘリが敵地に向けて飛ぶシーンがあり、間違いなく『地獄の黙示録』へのオマージュなのだが、このシーンは全然心に残らない。なぜなら、フェイス・ノー・モアというバンドの曲が使われているからだ。フェイス・ノー・モア自体はいいバンドだと思うが、やはり、映画にはオーケストラで奏でられるクラシックやオペラのアリアこそふさわしいと思う。
ところで、幼少のころに「ワルキューレの騎行」に深く感銘を受けた僕は、そのままクラシック音楽に傾倒するのかと思いきや、幸か不幸かヘビーメタルという音楽に出会い、そちらの世界に行ってしまった。本来ならば、AC/DCやメタリカの代わりに、バッハやモーツァルトのCDが山積になっていたかもしれないのに...。
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『地獄の黙示録』
出演:マーロン・ブランド、マーティン・シーン
監督:フランシス・フォード・コッポラ
製作:フランシス・フォード・コッポラ
製作年:1979年
製作国:アメリカ
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