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vol.56 『マルタのやさしい刺繍』 by 藤田奈緒


4月のテーマ:花

昔、ある男の子がこんなことを言っていた。
ある女友達の家に行ったら、花瓶に花が活けてあった。それまでその子の
ことを異性として意識したことなんかなかったのに、その花瓶の花を目撃
してからというもの、彼女のことが気になってしょうがない。

このあと2人の間に恋が芽生えたのかどうか... は置いておくとして、
「花」には人の心を動かす、ちょっぴり特別な力があるに違いないと思う。

子どもの頃、ピアノの発表会で花束をもらえば、ウキウキして気分よく
ピアノが弾けたものだし、一人暮らしの家で気分が浮かない夜を過ごした
翌朝、テーブルに何気なく飾っていた一輪の花を見て、ちょっと前向きな
気分になれたなんてことも。ケンカしたガールフレンドのもとに、
ボーイフレンドが大きな花束を抱えていくシーンなんて、よく映画にも
出てくるけど、彼女は彼の両手いっぱいの花を見た瞬間、一気にすべてを
許せてしまうんじゃないだろうか。

『マルタのやさしい刺繍』のマルタは、小さな花の刺繍で人生を変えた。

スイスの小さな村に住む80歳のマルタは、最愛の夫に先立たれたあと
生きる気力を失っていた。毎夜、夫の遺影を胸に抱いてベッドに横たわり
朝が来なきゃいいのにと思いながら朝を迎えてため息をつく日々。

ところがある日、長年忘れていた若かりし頃の夢を思い出した時から
マルタの日常は輝きを取り戻し始める。その夢とは、自分でデザインして
刺繍をした、ランジェリー・ショップをオープンさせること。
保守的な村では、マルタの夢は冷笑され軽蔑されるばかりだったが
一度覚悟を決めたらマルタは強かった! 3人のおばあちゃん友達に支え
られながら、マルタは自分の夢実現のためにコツコツ努力を重ね、物語の
最後には村中の人々に受け入れられる。
これでもかというほど保守的な村で、80歳のおばあちゃんが一番進歩的な
夢を語りそれを叶えるなんて、笑っちゃうぐらいさわやかで鮮やかだ。

ちなみにこのスイス映画、英語タイトルは『Late Bloomers』。
人生の「花」を咲かせるのは、その気にさえなればいつだってできるのさ!
なんてちょっと照れるけど、マルタを見てると、ついつい熱い気持ちに
なってしまう。

今日はいつもより遠回りしてお花屋さんに寄ってしまおう、かな。

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『マルタのやさしい刺繍』
出演:シュテファニー・グラーザー、ハイジ・マリア・グレスナーほか
監督:ベティナ・オベルリ
製作年:2006年
製作国:スイス
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