10月のテーマ:クセ
ひさしぶりに音楽モノをスクリーンで観た。
『扉をたたく人』
第4回UNHCR難民映画祭のクロージングを飾った作品だ。よかった。いい意味でばっさり裏切られて、これがまた実に感動した。
私は音楽モノ作品には、無条件に感動してしまうクセ(?)がある。
ぱっと思いつくものでも、『4分間のピアニスト』『戦場のピアニスト』『海の上のピアニスト』(やっぱり、ピアノ系の邦題って「ほにゃららのピアニスト」ってなってしまうことについて【余談】)...ほらね、感動してたでしょ。
ラフマニノフの3番がなんたるかも知らないくせに、思わず『シャイン』のサントラ買っちゃうし、ゴスペル初心者のくせに、やっぱりソウルに響くんだよ、これ、と、『天使にラブ・ソングを』のOH!HAPPY DAYを練習しちゃうし、『スウィングガールズ』だって、(今ではカワイイけど)上野樹里含む微妙な女子高生で十分感動してたし。そういう感じ。
繰り返される単調な日常において、ひょんなことから主人公が音楽や楽器に出会い、のめりこんでいく。今まで周囲のことに無感動だったような人間も、音楽によって人生が大いに彩られたり、ちょっとやそっとの困難だって、奇跡のガッツで乗り越えちゃったり。NO MUSIC, NO LIFE精神。人が何かに夢中になり、我を忘れてのめりこんでいく姿って単純に引きつけられてしまう。
専門家が聞けば、その演奏はそれほどミラクルでないかもしれないし、「このシーンは、替え玉か?」などと考えてしまうこともしばしばあるけど。それでも、音楽モノ、楽器モノは奏でられる音楽と、主人公の感情の昂ぶりとでグルーブしまくっちゃって。これまたどんなダイアログを並べられるより、心打つものがあったりするわけで。なんとも分かりやすくて、好きだ。
さて。
『扉をたたく人』は音楽モノでありながら、中盤から殆ど演奏シーンがでてこない。それがまた、音楽が人生にとって、どれほど価値あるものとなりうるかをみせている素晴らしい構成だ。
主人公の大学教授ウォルターがシリアからの移民少年タリクと出会うまでは物語は実に単調。その後、ジャンベ(アフリカン・ドラム)が奏でるアフリカンビート(3拍子)にのって、ストーリーは一気に盛り上がる。しかし二人の心が通い合うがいなや、不法滞在を理由にタリクは拘束されてしまう。そこからはジャンベの音色どころか、劇中音楽すら、殆ど出てこない。
タレクは、ガラス越しに訴える。
「自由に生きて、自由に自分の音楽を奏でたい」
生きることを奪われた青年に、本当に生きるとは何かを教えられる、ウォルター。そして音楽を奪われたことの、苦しさがそれこそ痛いくらいに伝わる。さっきまで心地よく響き渡っていた、あのジャンベの音色に対する枯渇感を観客は感じずにいられない。
自由の国、アメリカ。拘置所の近くにはその自由を謳歌するようなグラフィティアート。壁をへだてた向こうでは、人を番号で管理する自由とはかけ離れた世界がある。明日の居所さえ保証されない。家族さえ事前に知ることが出来ない。その扱いは宅配便の管理以下だ。ウォルターがタリクを救うため依頼したのはアラブ系弁護士。叔父も強制送還された経験を持つというアラブ系の彼も、高価なスーツを身にまとったニューヨーク出身、完全なアメリカ人だ。ベストは尽くすと一蹴された依頼人は、もはやなす術もない。だが現在のアメリカでは、その言葉にすがるしかないのだ。
不法滞在を擁護するつもりはさらさらない。ただ、9.11を経験したアメリカは、明らかになにか大事なものを失ったと思わざるをえない。
Broadway Lafayette ST.のプラットホームでジャンベを打ちならすラストシーン。次第に近づき重なるもうひとつの3拍子。ジャンベの音までも飲み込むそれは、ホームに滑り込む地下鉄の音。
ノーベル平和賞を受賞した大統領を擁すこの国は、この先、この国に生きる人全てに、自由と平和を保証してくれるのだろうか。
上野樹里といえば、『のだめカンタービレ』。原作は、いよいよ連載最終回!一大クラシックブームを巻き起こしたこの作品も、終わってしまうのか... ( ̄д ̄)エー。単行本出るまでほんとに待ちきれない...。
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『扉をたたく人』
製作年:2007年
製作国:アメリカ
監督:トム・マッカーシー
出演:リチャード・ジェンキンス
(2009年アカデミー賞主演男優賞ノミネート)
ハーズ・スレイマン、ヒアム・アッバス
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