今週の1本

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2009年12月 アーカイブ

vol.72 『遊星からの物体X』 by 浅野一郎


12月のテーマ:雪

皆さんが"雪"と聞いてイメージするものは何だろうか?雪国出身の方からは"雪かき"や"雪害"など、あまりいい印象はないと聞くが、多くの方は"ロマンチック、幻想的..."など、ポジティブなイメージを持っているのではないだろうか? 映画もやはり、「シザーハンズ」に代表されるような、ファンタジックな作品で雪を効果的に使っているものが多い。

僕が"雪"と聞いて真っ先に頭に思い浮かぶのは『遊星からの物体X』だ。タイトルからもお分かりになると思うが、ロマンチックなどとは程遠い...。舞台は南極。雪と氷に閉ざされた南極探検隊基地で起こる、エイリアンと隊員たちとの死闘を描いた、エイリアン映画の金字塔的な作品だ。
はらわたは飛び散るわ、首はもげるわ、頭は爆発するわの、当時はゲテモノ映画と評された映画である。


ノルウェーの探検隊によって発見されたエイリアンを掘り起こしてしまったアメリカ探検隊。凍り付いていたエイリアンは息を吹き返し、あらゆる生命体を媒介としながら、形態を変えて次々に隊員を襲っていく。仲間の中にも媒介とされ体を乗っ取られた者が出始め、次第にお互いに疑心暗鬼に陥っていく隊員たち。エイリアンのおぞましい姿が明らかになり、やがて、物語は最終決戦へとなだれ込む。死闘の末、最後のエイリアンを始末するも、生き残った2人の隊員は、相手がエイリアンに体を乗っ取られているかもしれないという不安に駆られる。そこで"ゾンゾン..."という曲が流れ、映画はそのまま不穏な終わり方をする。映画公開時、どちらがエイリアンなのか?という疑問を解き明かすヒントが映像に隠されているというウワサがあった。片方の登場人物の息が白くない...ということはあちらがエイリアンなのだ、という話もあったが、監督曰く、単純な編集ミスという話もあり、真偽のほどは定かではないようだ。

さて、この映画の特長はなんと言ってもクリーチャー造形だ。現在のようにバンバンCGを使える時代でもないのに、クリーチャーの完成度は、今見てもまったく見劣りがせず、思わず息を呑むほど。隊員のちぎれた頭部から足が生えてシャカシャカと歩き出す"蟹エイリアン"など、思わず笑
ってしまうようなクリーチャーもいるが、そんなヤツでさえ、「アバター」の100倍リアルだ。

リメイクの話もあるようだが、当時のような完成度は到底出せまい。もちろん、技術的には今のほうが数段上だろうが、82年に作られた本作には、そんな高度な技術を嘲笑うかのような緊張感がある。もちろん、僕が小さかったということもあるだろうが、やはり、小手先の技術を使って作る現在の環境では出せない"迫力"や、スタッフの"気迫"のようなものがあるのだと思う。

クリーチャーのことを書いていたら、『アルゴ探検隊の大冒険』のギシギシ動くタロスや骸骨剣士など、ストップモーションで撮ったことがバレバレのクリーチャーが出てくる映画を観たくなってきた。久しぶりにビデオを掘り起こしてみよう。

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『遊星からの物体X』
出演:カート・ラッセル、A・ウィルフォード・ブリムリー ほか
監督:ジョン・カーペンター
製作年:1982年
製作国:アメリカ
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vol.73 『ブロークバック・マウンテン』 by 桜井徹二


12月のテーマ:「雪」

雪をテーマに映画を紹介するとなると、2種類の映画が思い浮かぶ。1つは『シザーハンズ』『ホームアローン』といった心温まる作品。もう1つは『シャイニング』『ミザリー』など、雪で閉ざされた場所を舞台に展開する、身も心も凍る作品だ。

だが今回取り上げる『ブロークバック・マウンテン』は、そのどちらともまた違う作品だ。主人公はイニスとジャック。2人は雪を頂いた雄大な山々の中の1つ、ブロークバック・マウンテンで雇われカウボーイとして働く。やがて仕事を通じて友情を結んだ彼らだったが、ふとしたきっかけで一線を越えてしまう。そしてひと夏の間、ブロークバック・マウンテンでかけがえのない時を過ごす。

それから20年という長い年月の間に、2人はそれぞれ結婚し、家庭を築く。だがお互いを忘れることのできない彼らは、人目を忍んで思い出の地であるブロークバック・マウンテンで逢瀬を重ねる。そして人には明かせない過去、他人の人生を生きているような現在、想像すら困難な未来について思いをはせ、時には思うようにならない状況にフラストレーションを爆発させて衝突する。

だが雪を抱くブロークバック・マウンテンがいつまでもそこにそびえ続けるように、2人の状況がどれだけ変わろうとも、20年前にお互いに抱いた思いが変わることはない。彼らにとってあの夏こそが最良の瞬間であり、その思い出が心の中でもっとも大きな場所を占め続ける――そのことを示しながら映画は終わる。

もちろん、2人の関係が同性愛であるという点がこの作品の大きなポイントであることは確かだ。だがそんなちょっとセンセーショナルともいえるテーマも、作品を通しての舞台となる雄大な自然の前ではささいなことにも思える。突き抜けるような青空、崇高なまでの美しさを誇る山々。ただそれを映し出すことで示唆される2人の純粋な感情と癒されぬ孤独に、思わず胸を締め付けられるだろう。


ところで、冒頭で「雪といえば心温まる映画、身も心も凍る映画、いずれかが思い浮かぶものだ」と書いた。真逆の発想だけに、もしかするとどちらのタイプの映画を頭に浮かべるかでその人の人間性が分かるかもしれない。では、男性同士の切ない恋愛を描いた『ブロークバック・マウンテン』を思い浮かべた僕はどんなタイプなのだろうか? という話をするといろいろとややこしい話になりそうだが、いずれにせよ、この作品が観た人の心に音もなく、しかし確かなしるしを残していくのは間違いない。それこそ、夜中に降り積もる雪のように。

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『ブロークバック・マウンテン』
出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール ほか
監督:アン・リー
製作年:2006年
製作国:アメリカ
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