12月のテーマ:「雪」
雪をテーマに映画を紹介するとなると、2種類の映画が思い浮かぶ。1つは『シザーハンズ』『ホームアローン』といった心温まる作品。もう1つは『シャイニング』『ミザリー』など、雪で閉ざされた場所を舞台に展開する、身も心も凍る作品だ。
だが今回取り上げる『ブロークバック・マウンテン』は、そのどちらともまた違う作品だ。主人公はイニスとジャック。2人は雪を頂いた雄大な山々の中の1つ、ブロークバック・マウンテンで雇われカウボーイとして働く。やがて仕事を通じて友情を結んだ彼らだったが、ふとしたきっかけで一線を越えてしまう。そしてひと夏の間、ブロークバック・マウンテンでかけがえのない時を過ごす。
それから20年という長い年月の間に、2人はそれぞれ結婚し、家庭を築く。だがお互いを忘れることのできない彼らは、人目を忍んで思い出の地であるブロークバック・マウンテンで逢瀬を重ねる。そして人には明かせない過去、他人の人生を生きているような現在、想像すら困難な未来について思いをはせ、時には思うようにならない状況にフラストレーションを爆発させて衝突する。
だが雪を抱くブロークバック・マウンテンがいつまでもそこにそびえ続けるように、2人の状況がどれだけ変わろうとも、20年前にお互いに抱いた思いが変わることはない。彼らにとってあの夏こそが最良の瞬間であり、その思い出が心の中でもっとも大きな場所を占め続ける――そのことを示しながら映画は終わる。
もちろん、2人の関係が同性愛であるという点がこの作品の大きなポイントであることは確かだ。だがそんなちょっとセンセーショナルともいえるテーマも、作品を通しての舞台となる雄大な自然の前ではささいなことにも思える。突き抜けるような青空、崇高なまでの美しさを誇る山々。ただそれを映し出すことで示唆される2人の純粋な感情と癒されぬ孤独に、思わず胸を締め付けられるだろう。
ところで、冒頭で「雪といえば心温まる映画、身も心も凍る映画、いずれかが思い浮かぶものだ」と書いた。真逆の発想だけに、もしかするとどちらのタイプの映画を頭に浮かべるかでその人の人間性が分かるかもしれない。では、男性同士の切ない恋愛を描いた『ブロークバック・マウンテン』を思い浮かべた僕はどんなタイプなのだろうか? という話をするといろいろとややこしい話になりそうだが、いずれにせよ、この作品が観た人の心に音もなく、しかし確かなしるしを残していくのは間違いない。それこそ、夜中に降り積もる雪のように。
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『ブロークバック・マウンテン』
出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール ほか
監督:アン・リー
製作年:2006年
製作国:アメリカ
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