vol.74 『天空の城ラピュタ』 by 潮地 愛子
1月のテーマ:「未知」
先日、「未知」をテーマに原稿を書かなければならないが、まったく作品が思い浮かばないと話したところから映画の話になり、流れで『天空の城 ラピュタ』を見たことがないと告白したら、ある人に「あれ見てないなんて、信じられへん」と言われた。確かに、宮崎作品の中で一番好きという人も多いのは知っているのだが、『耳をすませば』(宮崎作品ではないけど)を大絶賛する友人から借りて見始めたものの、「雫、恋してるのね!」というセリフのところで恥ずかしくなってしまい見続けることができなかったという経験があるので、それ以来この手の作品はちょっと避けていたのだ。予備知識はほとんどなく、城が飛ぶんだろうぐらいの想像しかつかない。だが考えてみれば、そんな『天空の城ラピュタ』は私にとっての未知なる名作とも言えるではないか!ということで、早速、帰り道にレンタルして見たのが、この作品との出会いになった。
舞台は、19世紀後半の産業革命期のヨーロッパをモチーフにした架空の世界。両親をなくしてひとりぼっちの少年バズーは、ある日、空から落ちてきた少女シータを助ける。彼女は「飛行石」という不思議な石を持っていることから国防軍や海賊に追われていた。彼女を放っておけないバズーは戦いと冒険に巻き込まれていく。
海賊のドーラ一家から逃れようとするシーンはコミカルさとスピード感があり、機関車もいい味を出していて冒頭から楽しめた。でも、まだちょっとナナメにかまえている自分がいて、「こういうタイプの女に引かれるわけよね、男は」なんて思いながら見ていた。シータは出来るオンナだ。まず、謎めいている。そして、廃坑のシーンで本領発揮。目玉焼きののったパンを渡されると、「うれしい、おなかペコペコだったの!」と素直に喜んでみせる。そして、あとりんごが1個にあめ玉が2つあるよ、とバズーが言うと「わあ~、バズーのカバンて魔法のカバンみたいね。何でも出てくるもの」と、ほめる。これ大事である。そして、「私、父も母も死んじゃったけど、家と畑は残してくれたので、何とか一人でやっていたの」と健気で自立したオンナをアピール。そのへんの女性向け雑誌やマニュアル本に書いてありそうな「男心をつかむ」ポイントをしっかり押さえている。はい完敗です、さすがヒロインだねえなんて余裕をかましていたのに、このすぐあとのバズーのセリフにやられてしまった。自分のせいでひどい目にあわせてごめんねと謝るシータに彼が言うのだ。「ううん、君が空から降りてきたとき、ドキドキしたんだ。きっと、素敵なことが始まったんだって。」
親もなくひとりぼっちの日々にあんな出来事が起こるなんて、予測もしなかっただろう。だけどその出来事に直面して、素直に、これからのこと期待に胸をふくらませている彼に感動してしまった。彼はいわば「未知」のことに希望を持っている。そう考えたら「未知」がとてもステキなことに思えてきた。いつ何が起こるかわからない。でもそこに、不安や恐れではなく希望を持てたら、この瞬間でさえも楽しく思えてくるような気がしたのだ。
バズーのセリフにナナメの姿勢を正されてから90分、この作品を堪能した。燃え盛る塔からバズーがシータを救い出すシーンは、『タイタニック』の誰もが真似したあのシーンよりもある意味ロマンチックで心を持っていかれた。この作品の中で一番好きなシーンだ。そして、気に入ったセリフがもう1つ。ラストでシータが言うのだ。「土に根をおろし、風と共に生きよう。種と共に冬を越え、鳥と共に春をうたおう。」自然との共存というのは、私が見たいくつかの宮崎作品の中でも1つのテーマとなっているように思えるが、2009年の私のテーマが「アウトドア」で、海に行ったり山に行ったりして自然を感じることが多かったからか心に響いた。うまく言えないのだが、なんていうか「わかる。結局さ、それって人間が生きるうえでの基本だよね」みたいな気持ちになった。
そして、その気持ちのまま、「未知」に期待を膨らませて私は旅立とうと思う。この原稿がアップされる頃、私は沖縄にいる予定だ。なぜって?フッ、風を感じるためさ。
そんなわけで、ハワイのホノルルセンチュリーライドに続いて美ら島オキナワセンチュリーランに行ってきます。そのお話はまたどこかで...。
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『天空の城ラピュタ』
監督:宮崎駿
制作年:1986年
制作国:日本
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