10月のテーマ:天使
好きな映画はたくさんあるけれど、特別な映画は限られている。私にとって特別な映画のひとつは、『メリー・ポピンズ』だ。8歳の誕生日に買ってもらったVHSを、テープが擦り切れるほど繰り返し見たのを覚えている。
厳格で仕事ひとすじの父と婦人参政権運動に夢中な母のもとで暮らすジェーンとマイケルは、いたずらが大好き。乳母はすぐにさじを投げて逃げ出してしまう。ある日そんな二人の前に現れるのが、バラ色の頬をした新しい乳母、メリー・ポピンズだ。この魔法使いとも守護天使ともいえるメリーにかかれば、部屋の片づけは楽しいゲームに、煤にまみれながらの煙突そうじは思いがけない冒険に変わる。メリーが来てから次々と起こる不思議で愉快なできごとを通して、子どもも親も成長し、やがて家族はひとつになる。
『メリー・ポピンズ』の魅力のひとつは、当時としては驚くようなアニメーションや特撮を駆使したシーンの数々。絨毯張りのバッグからは、帽子掛けや植木鉢、電気スタンドまで何でも出てくる。指を鳴らせば、おもちゃの兵隊が行進しながらおもちゃ箱へと帰っていく。絵の中に飛び込んだかと思えば、台から外れた回転木馬が自由に走り出す。どのシーンにも子ども心が大いにくすぐられた。
メリー・ポピンズ役のジュリー・アンドリュースとバート役のディック・ヴァン・ダイクの歌もたまらない。「お砂糖ひとさじで」や「チム・チム・チェリー」は、英語が分からないながらも真似をして口ずさんでいたし、幸せな気分になるという不思議な言葉、「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」はどうしても言えるようになりたくて紙に書いて練習した。
思えばこれが字幕で楽しんだ初めての映画かもしれない。小学生の私が思いきり映像を楽しめたのだから、よくできた字幕だったのだろう。そう考えると、私にとって今の仕事にもつながる大切な作品だ。
────────────────────────────────────────────────
『メリー・ポピンズ』
監督: ロバート・スティーヴンソン
出演: ジュリー・アンドリュース、ディック・ヴァン・ダイク、
デヴィッド・トムリンソン、グリニス・ジョンズ
製作国: アメリカ
製作年:1964年
────────────────────────────────────────────────