今週の1本

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vol.166 『おおかみこどもの雨と雪』 by 藤田彩乃


11月のテーマ:学び

ある男性と出会って恋に落ちた大学生の花。しかし、しばらくして彼が人間の姿で暮らす「おおかみおとこ」だと知ります。しかし花はそれを受け入れ、2人の子供を産みます。雪の日に生まれた姉は雪、雨の日に生まれた弟は雨。そう名づけられた2人は人間とおおかみのふたつの顔を持つ「おおかみこども」でした。それを隠して静かに幸せに暮らしていた一家でしたが、父である「おおかみおとこ」が突然死亡。残された花は、雪と雨を守るため、都会を離れて自然豊かな田舎町に移り住み、悪戦苦闘しながら「おおかみこども」を女手ひとつで育てていきます。

この作品では、花の19歳から32歳までの13年間が描かれています。映画を観ていると、まるで花、雪、雨の家族と一緒に時を過ごしたような感覚になります。大学生だった花が母になり子育てをすることによって精神的に成長していく姿、おてんばな雪や気弱な雨がひとりの個人として成長していく姿を、そばで一緒に見ているようで、小さな出来事にも妙に感動してしまいます。「おおかみこども」である雪と雨が、「おおかみとしての道」も「人間としての道」のどちらも選べるように、田舎に移り住んだ花でしたが、いざその時になってみると、子どもたちの決断を素直に受け入れられず苦悩します。立派に育ってくれたことを嬉しく思う一方で、自分の元を離れ旅立っていく子どもたちに寂しさも感じていたのでしょう。そんな葛藤や複雑な心境が伝わってきて、思わずポロポロ涙が出てきます。そして、どんな大変なことが起こっても体を張って一生懸命育てる花の姿を見て、母の強さを実感。自分の母親への感謝の気持ちがこみ上げてきます。一見ちょっと非現実的な設定なのですが、だんだん見進めるにつれ、どんどん作品の世界に引き込まれ、最後は号泣すること間違いなしです。

花の移住先の舞台となっているは、細田守監督の生まれ故郷である富山県。彼の出身地である上市町や、その隣の立山町周辺に広がるのどかな田園風景や雄大な山々が、丁寧かつ美しく描かれています。かくいう私も実は富山県出身。富山の両親によると、公開前から地元ではかなり話題になっていたようです。作品内では見覚えのある景色がたくさん出てきましたので、映画の舞台になった富山の名所を少しご紹介しましょう。

雨が「先生」と慕うおおかみに連れられて水を飲みに来た場面やラストシーンで、大きな滝が何度か登場します。このモデルは富山県立山町にある「称名滝」。地元ではとても有名な滝で、富山で育った人は遠足や修学旅行などで一度は必ず訪れる、富山を代表する絶景の1つです。称名滝の落差はなんと350メートル。日本で最も高い滝として知られています。雪が多く降る冬は通行止めになり訪れることができませんが、春から秋にかけては直通バスが出ています。さらに、雪解け時にのみ現れる落差500メートルのハンノキ滝も見ごたえがあります。そして、そのバスで滝まで行く途中に車窓から見えるのが、ラストシーンのモデルなっている「悪城の壁」。横幅2キロ、高さ500メートルの巨大な岩で、一枚岩の大断崖としては日本一と言われています。他にも、花が住む家は、上市町の山深いところにある古民家がモデルだそうですし、里山の登山道や草原に1本の木がぽつんと立っている風景など、富山の大自然がモチーフになっていると感じられて、富山県民としては嬉しい限り。実際の景色も圧巻ですが、本作でもとても壮大に幻想的に描かれているので、ぜひ風景にも注目してみてください。

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『おおかみこどもの雨と雪』
監督・脚本・原作:細田守
声の出演: 宮崎あおい、大沢たかお、 菅原文太 ほか
製作国: 日本
製作年:2012年
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