2月のテーマ:謎
今回は、自分映画史の中で最高ランク、しかし周囲の評価は最低という謎の映画を紹介したい。『アウト・オブ・サイト』だ。
僕がこの映画を紹介して観た人の大半が、途中で観るのをやめたと言い、一般の方の評価を見ても、「退屈...」というコメントが多い。たしかに盛り上がりという盛り上がりはないし、ジョージ・クルーニー扮する泥棒にしても、ダイナミックなところはかけらもない。ストーリーもケチな小悪党・ジャック(ジョージ・クルーニー)が、彼を追う捜査官、カレン(ジェニファー・ロペス)と恋に落ちるだけと言えば、"だけ"だ。もちろん3Dでもない。ただ、この映画の見所は派手な銃撃戦やカーチェイスなどではない。
ホテルのバーでのシーン。窓の外は降りしきる雪。泥棒と捜査官という互いの立場がもたらす結末を分かっていながら、激しく惹かれ会う二人。淡々とした会話を交わし続ける彼らからは、"愛してる"だとか、"これからどうする?"という台詞は一切出てこない。あからさまな流し目で見たりすることもない。
藤沢周平の小説を映画化した『蝉しぐれ』のラストシーンを思い出す。一方はお殿様の寵愛を受けた側室、一方は単なる藩士。幼い頃から惹かれ合っていた彼らは、今生の分かれの際にお互いの気持ちを無言のうちに交わしあう。
時には掴みどころがなくあいまいとしているのだけど、感覚的なところに深く刺さるという感じ。あえて核心には触れない距離感がある。
「好きだ→即・熱いキス!」的なスピード感や分かりやすさはないが、観た後に"うーん、よかったねえ"と思うことができる一本にはるはずだ。一度、ダマされたと思って観てほしい。
ちなみに本作品は、米雑誌「エンターテインメント・ウィークリー」の"The 10 Sexiest Films"で2位にランクインしている。
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『アウト・オブ・サイト』(1998)
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー,、ジェニファー・ロペス、ドン・チードル
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