気ままに映画評

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『ブーリン家の姉妹』 by 湯原史子(2005年4月期実践コース修了生)

美しい姉妹の宿命


西洋史に造詣の深い方ならタイトルからピンと来るかもしれませんが、後にイギリス王朝の継承者となったエリザベス1世を生み出した姉妹の物語です。
邦題では姉妹となっていますが、原題"The Other Boleyn Girl(もう1人のブーリン家の娘)"の通り、今では歴史の陰に埋もれてしまった存在を掘り起こして描いています。
英国の曇天のような暗く重々しい雰囲気の中、ヘンリー8世をめぐる姉妹の愛憎劇が描かれていきます。
注目はやはり2人の若手女優の競演でしょう。
後にエリザベス1世の母となるアン・ブーリン役のナタリー・ポートマンは高貴な美しさで魅了します。
周囲の期待や自らの勝気な性質により追い詰められていくアンの姿は気高くも痛々しく、後半、弟妹らと対峙する場面は息をのんで見つめてしまいました。

そして妹のメアリー役のスカーレット・ヨハンソンも、次子として抑圧され続けた存在の情感をうまく表現しています。姉と違って装飾品も少なく地味ないでたちながら役柄の芯の強い美しさがにじみ出ており、普段の彼女とは違った魅力を見せてくれています。

近頃は生まれ順による占いや解説本などがよく出ていますが、この作品からも長子に生まれた子にかかる期待や本人のそれに応えようとする野心、次子として生まれた子への関心・期待の薄さやそれを受け入れる諦観の念など、さまざまな思いが込められていたのだと思います。それらの思いはスクリーンからあふれるように、じわじわと漂ってきました。

歴史物ゆえ、史実に照らした際の論争は多々あるかもしれませんが、まとまりのあるエピソードがコンパクトにまとめられており、退屈さを感じさせません。ラストシーンはこれから来るであろうイギリス王朝の最盛期を感じさせ、高揚感を覚えました。
時間をかけて作られたお酒などをお供にゆったりと鑑賞し、歴史の雄大さを感じたい一作です。