幸せへの疑問
ナタリー・ポートマンが今回は珍しく悪役的な役柄だったので、いつもと違う彼女の演技は新鮮だった。あの強い目と彼女独特の雰囲気が、賢く野心的なアンにぴったりで、王妃という立場に執着していく演技はうなるほどに上手い。
対する妹役のスカーレット・ヨハンソンは抑えた演技でコントラストも鮮やか。お互いの長所を絶妙に引き出していて、メリハリの加減が非常に良かった。
アンとメアリーの姉妹を見ていると、現代を生きる女性の姿を投影してしまう。アンは賢く、意志の強い策略家であり、自分の望むものは何としても手に入れる外面的美人タイプ。一方メアリーは控えめで女性の愛らしさがあるが、意志と根性を両方合わせ持っている内面的美人。現代で働く女性は、この2人のどちらかのタイプに分かれるのではないだろうか。
仕事か結婚か、という二者択一の考え方は今ではもう古いとされながらも、やはり女性はどこかで「結婚」の2文字は意識しているものである。結婚だけが幸せではない、というのは頭で分かっていても、感情で納得し難い。
では、結婚すれば必ず幸せになれるのか、というと決してそうではない。それを分かっているからこそ、現代女性もアンも"仕事"や"立場"という不確定なものに執着するのだろう。
「幸せ」に何を求めるかで、その人の人生は変わってくる。見方を変えれば、アンの行動の底には、ある種の純粋さがあるのではないか。
しかしアンの姿を見ていて、何事においても感情に支配されてはいけないのだと感じた。感情ではなく、きちんと頭で物事を考えて、心で感じていればこの悲劇は起きなかったのではないだろうか。
映画が終わった後、自分の望む幸せが、どの方向を向いているのか、という疑問を投げかけられたような気持ちになった。
権力という目に見えない力を求めるのか、ただ1人の愛を求めるのか、人間の心理や欲望を、あらゆる角度から描いた作品である。