気ままに映画評

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『ブーリン家の姉妹』by 林忠昌(2007年10月期実践コース修了生)

愛が歴史を作った?


『ブーリン家の姉妹』この映画を紹介しようとすると、『ブーリン家の姉妹』は...、と思わず口ごもってしまう。それほど語り難く、一筋縄ではいかない作品である。
16世紀のイングランドの宮廷を舞台に繰り広げられる王(ヘンリー8世)と新興貴族ブーリン家の2人の姉妹、そして周りの人物たちによる愛憎劇がストーリーの1つのテーマだが、背景として、イングランドのローマ教会との断絶や他の欧州諸国(スペイン、フランス)との関係などにも触れており、歴史物としても十分に楽しめる。
公式ホームページを見ると「世界を変えた華麗で激しい愛の物語」とあるが、そこで繰り広げられる人間模様は目まぐるしくも生々しい。
新興貴族であるブーリン家が台頭していくための戦略として、宮廷に愛人として送り込まれた同家姉妹のアンとメアリー。最初に妹のメアリーがイングランド王ヘンリー8世の寵愛を受ける一方、姉のアンは許婚者がいる男性との"不適切な関係"(当時は重大な罪とされた)の表面化を避けるため、フランスへ極秘追放される。
メアリーは王の子を身ごもり、男子を出産するも妊娠を機に王の彼女への訪問回数は減りがちに。そんな折、アンが帰国し、王の気持ちは彼女に傾く。そして姉妹間の確執が始まり、アンは王の寵愛を妹から勝ち取ったのをいいことに王妃の座につくという野心を抱く。
野心の実現のためには、その当時王妃だったキャサリン(ヘンリー8世の最初の妻でスペインから嫁いだ)を排除しなければならない。この目的を達成するためアンは邁進するのだが、彼女の根本にある行動原理は"王から真の愛を得たい"という想いではなかっただろうか。
彼女は「権力や地位の伴わない愛など無意味である」というセリフによって、妹メアリーの王への純愛との違いを鮮明にしてはいるものの、これも彼女なりの真剣な愛し方であった、と捉えることもできる。
こうしたアンの"愛"が結果的にイングランドのローマ・カトリック教会との決別、そして王のイングランド国教会のトップ就任(すなわち政教一致)という歴史の大波をもたらすのである。
この映画は鑑賞後に深い余韻を残すことは言うまでもなく、"イングランドの歴史"というさらに広大な、奥の深い、興味深い世界への道案内の役を果たしてくれる。