気ままに映画評

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2009年5月 アーカイブ

『天使と悪魔』
 by 鈴木純一(2005年4月期実践クラス修了生)


先日、アカデミー修了生も勤務する、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント様より、5月15日から公開の「天使と悪魔」のプレミアム試写会にご招待いただきました。早速、同席したプロ翻訳者でもあり、映画コラムニストでもある当校修了生、鈴木純一さんに、鑑賞後の感想をいただきました。


「天使と悪魔」ラングドン・シリーズ第2弾。

 原作をリスペクトし、原作を超えたタイムリミット・サスペンス

「ダ・ヴィンチ・コード」から3年、いよいよ続編の「天使と悪魔」が公開される。主役のラングドン教授を演じるのは前作同様トム・ハンクス。監督も引き続きロン・ハワードだ。

ロン・ハワードはファンタジー作品の「スプラッシュ」から、実録ドラマ「フロスト×ニクソン」まで幅広く手掛けているが、意外なことにシリーズモノを監督するのは今回が初めてとなる。

原作「天使と悪魔」は「ダ・ヴィンチ・コード」以前に書かれた小説だ。しかし映画版では「天使と悪魔」は続編の設定となっている。第1作目と2作目を入れ替えての映画化となったが、その変更は成功したといえる。なぜかというと、「天使と悪魔」の方が見どころの多い、続編にふさわしい要素を含んでいるからだ。

成功する続編に共通する要素とは何か?第1作目がヒットすると、続編には前作以上の期待が寄せられる。ハードルが上がるわけだ。よって、多くの続編がアクションや見せ場を増やし、キャスティングを豪華にするなど、スケールそのものを拡大する傾向にある。

「ダ・ヴィンチ・コード」では容疑者にされたトム・ハンンクス演じるラングドン教授が逃亡を図りながらも謎を解いていくという、比較的シンプルな構成だった。しかし「天使と悪魔」はいくつものプロットが折り重なった構成になっている。バチカンの頂上部に立つ枢機卿たちの誘拐、秘密結社イルミナティの陰謀、暗号解読、そして恐ろしい予告殺人。

極めつけは、1時間ごとに謎を解決しなければならないタイムリミット・サスペンスの要素だ。これだけのアイディアを惜しみなく注ぎ込み、先が読めないハラハラドキドキのシーンが連続する。究極のジェットコースター・ムービーだ。それもそのはず、ロン・ハワードはあの「24 TWENTY FOUR」の仕掛け人のひとりなのだ。

「天使と悪魔」は原作を読んでいない人が観ても十分にわかりやすく面白いし、原作を読んだ人でも新たな楽しみを発見できる作りとなっている。原作は長編小説なので、そのまま映画にすることはできない。設定を変えるか、登場人物を減らすなど工夫を凝らすことが必要となる。映画版では、原作と比較すると、アレンジを加えた箇所が多く見つかる。文庫本で900ページ以上ある物語を、実にうまくまとめ、2時間18分の引き締まった映像作品に仕上げたことに感動する。

ベストセラーにはファンが多く、原作と比較しての厳しい声は避けられない。世界的ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の姉妹作ともなればなおさらだろう。それでもロン・ハワードは、迷うことなく「娯楽サスペンス映画であること」を選んだ。その挑戦は成功したのか?ぜひ映画館で確かめてほしい。