『サブウェイ123 激突』
デンゼル・ワシントンとジョン・トラボルタが"激突"!!
作品に見え隠れする、タランティーノのエッセンス
by 鈴木純一(2005年4月期実践クラス修了生、翻訳者、映画コラムニスト)
最近、ハリウッド大作にリメイク版が目立つ。リメイクは「知名度」という点でアドバンテージがある。しかし、実はハンデもあるのだ。それは、これまでの少なからずの作品が(オリジナルの方がよかったよ)とネット上などで評価され、ファンの中には期待感以上に懐疑心を抱く人も少なくないからだ。
トニー・スコット監督の最新作、『サブウェイ123 激突』を観た。1974年に「サスペンス映画の傑作!」と絶賛された、『サブウェイ・パニック』のリメイクである。『サブウェイ・パニック』で犯罪者グループがお互いを「ブルー」「グリーン」と色で呼び合う設定は、この映画をこよなく愛するクエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』にも登場する。宝石店を襲撃する男たちが同じように色でお互いを呼び合うのだ。そんな逸話からも、『サブウェイ・パニック」が優れた作品であったことがわかる。
スコットとタランティーノの関係は興味深い。スコットの監督作品、『トゥルー・ロマンス』の脚本を書いたのがタランティーノである。また、先に紹介した『レザボア・ドッグス』のエンド・クレジットでは、タランティーノはスコットに謝辞を贈っている。つまり、タランティーノの『レザボア・ドッグス』には、将来スコットが『サブウェイ・パニック』を再現するという"予兆"が記されていたのである。
主演のデンゼル・ワシントンはスコット作品の"常連"スターだ。『クリムゾン・タイド』(実は、タランティーノがノークレジットで脚本に参加)、『マイ・ボディガード』、『デジャヴ』に続き、今回が4度目になる。一方、キレた犯人を演じるもう一人の主役、ジョン・トラボルタは、ご存知、タランティーノの代表作「パルプ・フィクション」で同じように危険な男を演じている。さらに、『トゥルー・ロマンス』で印象的な殺し屋を演じたジェームズ・ガンドルフィーニが、『サブウェイ123 激突』ではニューヨーク市長役を好演している点も見逃せない。
もうおわかりだろう。『サブウェイ123 激突』には、スコットとタランティーノというハリウッドの強力ラインによる、類い稀な"娯楽作品の遺伝子"が組み込まれているのだ。
『サブウェイ123 激突』でもスコットの作風は健在だ。細かいカット割り、早回し、スローモーション、テロップ、ストップモーション、過剰演出ギリギリの音楽も相変わらずで、冒頭から観客は地下鉄ジャック事件のスリルと心地よい不安感に引き込まれていく。
オリジナルの『サブウェイ・パニック』との違いも鮮やかに際立つ。警察と犯人グループとの追跡劇が印象的だった旧作に対し、本作は地下鉄ジャックのリーダー、ライダー(ジョン・トラボルタ)と、実直な地下鉄職員ガーバー(デンゼル・ワシントン)の心理戦に重点が置かれている。
ガーバーはある"罪"を背負いつつ、この事件では、もう一度まっとうな人間として立ち直ろうとライダーと戦う。人間が持つ善と悪を象徴する2人が"激突"する展開は、最後まで緊張感が張りつめている。
主役の2人以外にも、犯人と交渉する警部補役にジョン・タートゥーロ、緊張の合間で絶妙なユーモアを醸し出すガンドルフィーニ、そして私の大好きな名脇役、ルイス・ガスマンが犯人グループの一員を演じ、それぞれがいい味を出している。(ガスマンが活躍する場面が少なかったのは残念だったが)
映画ファンにとってお気に入りの作品がリメイクされるのは、複雑な心境だ。でも今回の『サブウェイ123 激突』は、スコット監督の強烈な映像スタイルと出演者たちの演技から、別の新たな作品と見なしても楽しめるはずだ。オリジナルを未見の方は、ぜひ見比べてほしい。