Text by 鈴木純一
『ベスト・キッド』は1984年に製作された同名作品のリメイクだ。オリジナル版をリアルタイムで体験した者としては、最近流行のリメイクの1本かと思って観たのだが、結果は予想を上回る面白さだった。基本的なストーリーはオリジナル版とほぼ同じ。違うのは舞台がカルフォルニアから北京になり、主人公が習うのが空手からカンフーへと変更された点だ。
主人公のドレ(ジェイデン・スミス)は、父親を亡くし、新生活を求めて北京に移り住む。新しく始まった北京の生活で、彼はカンフーを習う乱暴な少年チョンのいじめにあう。いじめに苦しむドレは、カンフーの達人であるアパートの管理人ハン(ジャッキー・チェン)にカンフーを教えてくれと頼むのだった。その後、ハンの特訓を受けたドレとチョンは、カンフーのトーナメントで対決することなる......。
ハンから特訓を受けられることになったものの、ドレはいつまで経っても訓練させてもらえず、ひたすら上着を脱いで棒にかけ、それを取って着る動作を繰り返させられる。この場面は、オリジナル版で主人公がひたすら車のワックスがけをさせられるシーンの再現だ。やがて、上着を脱いで棒にかける何気ない動作がカンフーの技につながると分かる。この展開はオリジナル版と同じなのだが、観ていて思わず心が高揚する名場面だ。実は、ワックスがけから、上着の着脱に変更したのは、ジャッキー本人からの提案によるものだという。
30年以上アクション映画に出演してきたジャッキー・チェンだが、今回は師範役ということで得意のカンフーを封印し、俳優として新たな一面を見せている。悲しい過去を持つハンはドレと出会い、人生に希望を持とうとする。一方、父親のいないドレはハンと出会い、大切なことを教えてくれる師範を得る。映画の中で、この擬似的な親子関係が、より顕著に表れるシーンがある。
トーナメントを順調に上り詰めていくドレ。ところが因縁のチョンとの決勝戦を目前に、卑劣な選手の反則行為により、大怪我を負わされてしまう。急遽医師の診察を受けるドレ。そこで医師に棄権するよう勧告される。それでも闘うことを主張するドレ。そんなドレに対し、ジャッキー演じるハンが反対し、こう言うのだ。
「もうこれ以上、君が傷つく姿を見たくない ――」
まさに、師匠ではなく、父親としての顔が現れた瞬間だ。しかし、これに対しドレは、なおも闘いの続行を主張する。そこでハンは問う。
「もう十分、君の強さは見せられたはずだ。なぜ、そんなに闘いたいのか」この問いに対するドレの答えはこうだ。
「まだ僕の中に、彼(チョン)を怖いと思う気持ちがあるからだよ。」
これまでの特訓を通して、闘っていたのはドレだけではない。ハンもまた、人生に立ち向かい、己に打ち勝つべく闘っていた。このシーンは、これまで教える立場にあったハンが、初めてドレから「闘いの本質」を教えられた場面だ。
「真の強さとは何か?」本作は、観る者に強烈なメッセージを訴えかけている。
オリジナル版へのリスペクトも忘れず、新たなアイディアを加えて生まれ変わった『ベスト・キッド』。親子で観ても楽しいし、友人同士で観ても面白い。誰が観ても満足できる映画だ。オリジナル版を観たという人も、観ていないという人も、ぜひとも劇場に足を運んでほしい。