気ままに映画評

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2010年9月 アーカイブ

アクションの迫力とゾンビの恐怖を3Dで体感せよ!
『バイオハザードⅣ アフターライフ』

                                                 Text by 鈴木純一

ちらしバイオハザード.jpg人間とアンデッド(ゾンビ)が戦う『バイオハザード』の最新作は、シリーズ初の3D映画だ。近年は3Dがブームになっているが、『バイオハザードⅣ』は3Dカメラで撮影された、"本物の3D映画"である。

本物の3D映画とは何か? それにはまず、最近の映画産業の3D事情から説明する必要があるだろう。例えば、3D映画として公開された『タイタンの戦い』。これは1台のカメラで通常通り撮影した映像をコンピューターで3Dに変換した、いわば"3D化映画"である。

一方、本作品は撮影の段階から3Dだ。2台のカメラを人間の目と同じように横に並べて撮影するフュージョン・カメラという機材を使うことで、撮影の段階から立体的な映像を撮ることが可能になったのだ。こうして撮影された"真の3D映画"は、"3D化映画"と比べると、立体感と奥行きに歴然とした差が出る。


実はこれは、ジェームズ・キャメロン監督が『アバター』を制作する際に使用したもの。本作の監督であるポール・W・Sアンダーソンがキャメロンにアドバイスを求めたことで、『バイオハザード』シリーズで初めての "本物の3D映画"が実現したのである。


ところで、近年の3D映画の中には「わざわざ3Dにする必要はないのでは?」 と思うような作品も多い。特に字幕版で観る場合、字幕までが浮き上がって見えて読みづらいという経験をした人もいるだろう。また、長時間に及ぶ映画の上映中ずっと3D眼鏡をかけて大画面を見ていると、しまいには頭がクラクラすることすらある。

ところが、『バイオハザードⅣ』は違う。約1時間半という適度な上映時間に加え、3Dで観ることにより、一種のアトラクション(ゲーム)感覚が味わえるのだ。それも当然、元はと言えばこのシリーズは人気ゲームを映画化した作品。ゲームセンターで、迫りくるゾンビたちを次々と銃で撃ち落としていくリアル・ガンシューティング・ゲームのような、アトラクション(ゲーム)感覚のシーンが盛りだくさんなのだ。ゾンビ(アンデッド)やアクションといったキーワードから考えてみても、これこそ3Dで見るべき映画と言えるだろう。

実際、本作には、渋谷を舞台にした銃撃戦と大爆発のオープニングに加え、手裏剣、斧、銃弾や割れたガラスなどが観客めがけて飛んでくる3D映画のお約束な演出もある。特に中盤の刑務所でアンデッドとアリス(ミラ・ジョボヴィッチ)が戦うアクションシーンは、本作屈指の緊迫感ある見せ場だ。逃げるアリスの背後に迫るアンデッドの大群に、思わず「アリス、後ろ!後ろ!」と言いたくなる。

アンダーソンは『モータル・コンバット』『エイリアン VS プレデター』などアクションを得意とする監督だが、本作で3D映画に新たな表現方法があると確信したのか、現在ミラ・ジョヴォビッチ主演で『三銃士』を3Dで撮影中だ。ちなみにご存じの方も多いだろうが、アンダーソンとジョボヴィッチは夫婦である。


そして、もう一つ注目したいのはキャスティングだ。本作では、ドラマ『プリズン・ブレイク』で人気を得たウェントワース・ミラーが登場するが、ミラーが演じるクリスは最初、刑務所に閉じ込められているという設定だ。『プリズン・ブレイク』で刑務所から脱走する囚人を演じたミラーを再び刑務所に入れるというシナリオは、ドラマファンへの目配せか。

さらに、前作から引き続きクレアを演じるのは、ドラマ『HEROES/ヒーローズ』でもお馴染のアリ・ラーター。他にも少女Kマートに扮したスペンサー・ロックも再び登場する。さらに『Ⅱ』で活躍したジル・バレンタイン役のシエンナ・ギロリーも復活! 一体、どこで彼女に会えるのかは......観てのお楽しみである(笑)。


前作までの登場人物が新たな役割を担ってお目見えする本作は、シリーズの集大成にして新しいステージの始まりともいえる。そして3D技術によってアクションとスリルが満載のアトラクション映画となった『バイオハザードⅣ アフターライフ』、ぜひ映画館で体感してほしい。

斬って、斬って、斬りまくれ!
サムライ映画2本の予告編
『十三人の刺客』&『サムライアベンジャー 復讐剣 盲狼』

日本初!? 劇場公開映画の"予告編"を斬るコラム

明日に向って観ろ!



Text by Junichi Suzuki (鈴木純一/映画コラムニスト)


自分が映画を観るようになったのは80年代の半ば、まだインターネットがない時代だった。公開作の情報を得る手段といえば映画情報誌の記事や新聞の広告、映画館に置いてあるチラシくらい。本編上映前の"予告編"もあるにはあったが、予告編の上映中はまだ席についていない人もたくさんいて、さほど重要視されていなかった。内容も主役が登場するシーンをつないだ程度のものが多かったと思う。

ところが今はどうだ。予告編の良し悪しで観客の入りが変るとまでいわれ、配給会社はその製作に膨大な予算をつぎ込んでいる。本編撮影に先んじて予告編専用のシーンを撮ることさえあるそうだ。そんな風にして世に放たれる予告編たちは、脇役でありながら観客の目を釘付けにし、時にはその後の本編より強い印象を与えることもある。最近は劇場でだけでなく、インターネットを通じて誰もが気軽に楽しむようになった。

もはや予告編は1つの"作品"だ。ならば予告編を独立した完成形と見立てた論評があってもいいと思った。このコラムは、本編を観る前に気になった予告編を取り上げ、その印象から本編の出来などを好き勝手に想像しながら論じるものだ。

なお、実際に本編をご覧になった皆さんの感想がこのコラムの論評とズレていても、当局は一切関知しない......。




NHK大河ドラマ『龍馬伝』にハマッている。幕末を生きる人間たちの、歴史に翻弄されながらも日本を変えようとする物語から目が離せない。
『龍馬伝』の影響なのかは分からないが、今年の秋以降は『桜田門外ノ変』『最後の忠臣蔵』『武士の家計簿』など、時代劇映画が次々と公開される。今回はサムライ映画の予告編を2本紹介しよう。


1本目は『十三人の刺客』。
"監督 三池崇史 『クローズZERO』シリーズ"とのテロップから始まった。
三池崇史はホラー『オーディション』(2000年)や日本製西部劇『スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ』(2007年)、アニメを実写化した『ヤッターマン』(2008年)など、多岐に渡るジャンルの映画を撮っている。しかも多作で、2000年から2010年の間に監督した映画は40本近く(!!)もあり、まさに"ひとり映画工場"である。そんな三池監督は海外での人気も高い。あのクエンティン・タランティーノ監督も熱烈な三池ファンの1人だ。そういえば、タランティーノは『スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ』に出演も果たしている。

役所広司が扮する主人公、島田が12人の男たちを引きつれて、暴君の明石藩主である松平を暗殺する計画を実行しようとする。ちなみに本作は、工藤栄一監督の『十三人の刺客』(1963年)のリメイク版だ。
オリジナル版での松平はかなりの悪党だったのだが、リメイク版でこの役を演じるのはSMAPの稲垣吾郎。この役にジャニーズの人気タレントとは意外なキャスティングで、これは面白い。

島田が12人のサムライたちに言う。
「預かった命、使い捨てにいたす」
"使い捨て軍団"っていえば、前回このコラムで紹介した『エクスペンダブルズ』(2010年)と同じ。ということは、これは"サムライ版エクスペンダブルズ"なのか!?

13人の刺客と300人の護衛を率いる藩主の対決が迫る。
オリジナル版では敵の数は53人だったのが...300人って。流行りのRPGゲームの影響なのか、敵の数が多すぎないか?

「斬って、斬って、斬りまくれ!」
激しい戦いが始まるのだが、このシーンで流れる曲がなぜか1970年代を代表するバンド、イーグルスの名曲『デスペラード』...。

邦画で流れる英語の歌というと、思い出す作品がある。横溝正史の原作を映画化した『悪霊島』(1981年)では、あのビートルズの『レット・イット・ビー』が使われていたが、当時小学生だった僕はビートルズを知らなかったために、しばらくの間、「レット・イット・ビー」を"『悪霊島』の歌"と勝手に名前をつけて覚えていた。

キャスティングは『クローズ ZERO』(2007年)の山田孝之と高岡蒼輔、『スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ』の伊勢谷友介、『神様のパズル』(2008年)の谷村美月、それに脚本は『オーディション』の天願大介と、三池組のスタッフと俳優が大集結している。

三池監督が初めて手がける本格的時代劇。どんな映画に仕上がっているかという期待を込めて、劇場に向かって走れレベルは★★★★★!


         * * * * * * * * * *


次は『サムライアベンジャーズ 復讐剣 盲狼』。

「世界中の映画祭が騒然!脅威のハイ・インパクト・ムービー、ついに日本上陸」のナレーションから始まる。
監督・主演は日本人。現在ハリウッドで活躍している光武蔵人(みつたけ くらんど)である。家族を殺されて盲目となった男が、剣を手に復讐を遂げようとするという内容だ。

盲目の主人公が登場する時代劇といえば『座頭市物語』(1962年)を始めとする『座頭市』シリーズを思い出さないわけにはいかない。『座頭市』はアメリカでも評価を得ており、ハリウッドではリメイク版『ブラインド・フューリー』(1989年)が製作された。他にも『盲目ガンマン』(1971年)という西部劇もある。

『サムライアベンジャー』も斬りまくっているが、刀で斬られて血が噴水のように出るスプラッター・ムービー系の描写に加え、ゾンビまで登場。ごった煮の感覚が満載の映画だが、予告編を観るかぎりかなりのインパクトがある。

この予告編を観て頭に浮かんだのがクエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル Vol.1』(2003年)である。『キル・ビル Vol.1』のクライマックスでも激しいチャンバラが繰り広げられていたが、これは若山富三郎主演の映画版『子連れ狼』シリーズ(1972~1974年)にタランティーノ自身が強い影響を受けていたからだといわれている。アメリカでは、シリーズ1作目『子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる』(1972年)と2作目『子連れ狼 三途の川の乳母車』(1972年)を1本にまとめて公開された『Shogun Assassin』(1980年)の影響だが、タランティーノは自作で『子連れ狼』の人斬りシーンを再現したかったのだろう。

タランティーノは自分の好きな作品のシーンをあからさまに引用する特徴がある。監督デビュー作『レザボアドッグス』(1991年)だって元ネタは香港映画『友は風の彼方に』(1986年)だし。光武監督は「自分が大好きな作品の影響を受けた作品を作るタランティーノの作品に影響を受けた監督」なのかもしれない。『サムライアベンジャー』も時代劇や西部劇、ホラーなど、監督の好きなものをありったけ詰め込んだ作品になっているようだ。

こういう映画、好きですよ。もし自分が映画を監督していいと言われたら、こんな映画になりそうだし。それに『サムライアベンジャー』には『パルプ・フィクション』(1994年)の渋い脇役、アマンダ・プラマーも出演している。そんなところにもタランティーノの足跡を見つけることができる。

『サムライアベンジャー』はすでに公開済みでDVDがリリースされている。新しい才能を見つけるためにレンタル屋に向かって走れレベルは★★★★★!

今回注目した予告編
『十三人の刺客』と『サムライアベンジャー 復讐剣 盲狼』


★『十三人の刺客』
監督:三池崇史
脚本:天願大介
出演:役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、高岡蒼輔
制作国:日本
9月25日より公開中
公式サイト:http://13assassins.jp/main.html



★『サムライアベンジャー 復讐剣 盲狼』
監督・脚本・主演:光武蔵人
出演:ジェフリー・ジェームズ・リボルド、ドミチアーノ・アーカンジェリ、
アマンダ・プラマー
制作国:アメリカ
公開済み。8/27よりDVDリリース
公式サイト:http://www.samurai-avenger.jp/index.html