恐らく自分以外にもいると思うが、映画を見ていると時折、途中でだらけてしまって内容が入ってこなくなる時がある。ソワソワしたり、時間をやたらと気にしてしまったり......。
どんなにストーリーが良くても、なるときはなる。プツンと糸が切れるかのように、ふいに集中力が切れてしまうのだ。問題は、ストーリーではなく構成にある。構成が平板だと、"中だるみ"してしまうのだ。
しかし、今回の韓国映画、『ベストセラー』はそんな"中だるみ"を一切許さない。緻密に計算され、作りこまれた構成になっているのだ。
2年前に盗作疑惑をかけられて以来、スランプに陥ってしまったベストセラー作家ペク・ヒス(オム・ジョンファ)。再起をかけ、彼女は執筆活動に専念するため1人娘のヨニ(パク・サラン)と共に、小さな村のとある別荘にこもることにする。
しかし、その別荘は、家全体に奇妙な音が響いたり、2階の奥に固く閉ざされた部屋があったりと、異様な雰囲気に包まれていた。村の人たちも、親切だがどこかよそよそしく不自然。ある日、娘のヨニが"お姉さん"と呼ぶ、謎の人物との会話の内容をヒスに話す。ヨニの話に魅入られたヒスは、その話を題材に新作を書き上げる。しかし、その作品に、またしても盗作疑惑がかけられてしまうのだ。無実を主張するヒスは、再び村に戻って調査を開始する......。
前半で描かれているのは、ぺクが怪奇現象を元に小説を書き上げるまで。ここまでは、いわばホラー映画の要素が強い。娘が話している"お姉さん"とは一体誰なのか? ペクが屋敷で見た怪奇現象とは何だったのか? 様々な謎が秘められ、非常に難解なストーリーになっている。能動的な姿勢で必死に謎ときを強いられ、セリフの1つ1つに集中して観なければすぐに展開についていけなくなってしまう。
一方 後半では、ペクが盗作の疑いを晴らすために調査を開始し、村の秘密が明らかになっていく。こちらはいわば、サスペンスの要素が強い。スピード感があり、グイグイと視聴者を引っ張っていってくれる。話が2転3転する意表を突く展開の連続だが、謎が次々とひも解かれていくため、受け身の姿勢で見られるようになっている。
そして特筆すべきは、前半と後半の境目に埋め込まれたちょっとした"仕掛け"だ。この仕掛けによって、前半を見ていた時に感じた違和感の正体が、明らかになる。ここで前半の流れが覆り、あっと言う間に後半に突入する。本来なら、ホラー映画がサスペンスに変わるなど、違和感を感じる所だろう。ところが、この映画では、前半のホラー部分と後半のサスペンス部分の間に粋な仕掛けを盛り込むことで、視聴者にその違和感を一切感じさせることなく、一気に結末まで展開させている。
恐らく、前半のホラーの要素だけで最後まで行く映画だったら、中だるみして飽きていただろう。逆に、後半のサスペンスの中に見られる激しいシーンばかりだったら、間違いなく疲れてしまっていただろう。しかし、この映画は、ホラーの要素の強い前半とサスペンス色の強い後半、そしてその両者の間に緻密に計算され、植え込まれた "仕掛け"の3つが揃うことにより、絶妙なバランスを生み出し、誰もが最後まで集中力を切らさずに見れる映画になっているのだ。
それにしてもこんなにも思い切った構成にしてしまうとは、実はイ・ジョンホ監督も映画の途中でソワソワし始める1人なのではないだろうか? しかもこの大胆さから察するに、その症状は案外深刻なのかもしれない...。
東京国際映画祭出展の『ベストセラー』、集中力がある人も無い人も、ぜひとも映画館へ足を運んでほしい。