君も明日からヒーローだ!?
ヒーロー映画2本の予告編
『キック・アス』『グリーン・ホーネット』
日本初!? 劇場公開映画の"予告編"を斬るコラム
明日に向って観ろ!
Text by Junichi Suzuki (鈴木純一/映画コラムニスト)
自分が映画を観るようになったのは80年代の半ば、まだインターネットがない時代だった。公開作の情報を得る手段といえば映画情報誌の記事や新聞の広告、映画館に置いてあるチラシくらい。本編上映前の"予告編"もあるにはあったが、予告編の上映中はまだ席についていない人もたくさんいて、さほど重要視されていなかった。内容も主役が登場するシーンをつないだ程度のものが多かったと思う。
ところが今はどうだ。予告編の良し悪しで観客の入りが変るとまでいわれ、配給会社はその製作に膨大な予算をつぎ込んでいる。本編撮影に先んじて予告編専用のシーンを撮ることさえあるそうだ。そんな風にして世に放たれる予告編たちは、脇役でありながら観客の目を釘付けにし、時にはその後の本編より強い印象を与えることもある。最近は劇場でだけでなく、インターネットを通じて誰もが気軽に楽しむようになった。
もはや予告編は1つの"作品"だ。ならば予告編を独立した完成形と見立てた論評があってもいいと思った。このコラムは、本編を観る前に気になった予告編を取り上げ、その印象から本編の出来などを好き勝手に想像しながら論じるものだ。
なお、実際に本編をご覧になった皆さんの感想がこのコラムの論評とズレていても、当局は一切関知しない......。
君も明日からヒーローだ!? ヒーロー映画2本の予告編
『キック・アス』『グリーン・ホーネット』
映画の世界には2種類のヒーローが存在する。スーパーマンやスパイダーマンのように、特殊能力を正義のために役立てようとするヒーロー。もうひとつのタイプは、特殊能力は持たないが、「正義」に目覚めてヒーローを始めてしまうタイプ。バットマンがこれにあたる。今回の2本は後の方のタイプだ。
まずは『キック・アス』の予告編から。
ヒーローに憧れる男が、自称ヒーローの"キックアス"になる。しかし悪を倒すつもりが...逆にボコボコにされる。当たり前だ。ヒーローの格好だけではヒーローにはなれない。仮面ライダーの衣装を着ても、仮面ライダーにはなれないのと同じだ。
そこに登場するのが"ヒット・ガール"。演じるのはクロエ・グレース・モレッツだ。モレッツは『(500)日のサマー』(2009年)で主人公に恋のアドバイスをする少女として脚光を浴びた。モレッツは1997年生まれでまだ13歳だが、すでに数多くの映画に出ている。僕が13歳の時に何をしていたかと思い返せば・・・350ml缶のコカ・コーラを一気飲みして、友達に自慢してました(笑)。
ヒット・ガールは必殺の二丁拳銃と格闘技で悪党を抹殺!・・・強すぎます。どうやらバイオレンス描写が多いようで、アメリカで成人指定されたのも納得。ところで以前から思っていたのだが、未成年の出演者たちは、成人指定された自分の出演作を観ることができるのだろうか?
彼女の父親を演じるのはニコラス・ケイジ。こちらもバットマンもどきのコスプレで登場する。『キック・アス』の原作はコミック。ケイジはコミック好きで有名なので、この役に指名されてきっと幸せなはずだ。
本作のプロデューサーはブラッド・ピットで、監督はマシュー・ヴォーン。さて、この2人のつながりは?
ガイ・リッチー監督作『スナッチ』(2000年)では、ヴォーンはプロデューサーを、ピットはご存知の通り主演を務めている。その時以来の仲ではないかと想像できる。
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もう1本は、『グリーン・ホーネット』。
こちらも"お目覚め系"のヒーローもの。新聞社の社長が勝手に"グリーン・ホーネット"となり、助手のカトーと共に悪と戦う映画である。
『グリーン・ホーネット』は1960年代に放送されて人気を博したテレビドラマだ。その時にグリーン・ホーネットの助手、カトーを演じたのは『燃えよドラゴン』(1973年)でブレイクする前のブルース・リーである。
今回の映画版でカトーを演じるのは誰か?と話題になっており、『少林サッカー』(2001年)のチャウ・シンチーなどが候補に挙がったが、最終的には『カンフー・ダンク!』(2008年)のジェイ・チョウに決まった。
主演のグリーン・ホーネットを演じるセス・ローゲンは『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007年)などのコメディ映画での好演でアメリカでは人気の俳優だが、日本での知名度は低い。演技だけでなく脚本も書く才人で『グリーン・ホーネット』でも脚本を担当している。彼が出演している『俺たちニュースキャスター』(2004年)や『恋するポルノ・グラフィティ』(2009年)も面白いのでオススメ。セス・ローゲンが日本でも人気者になることを願う。
予告編には、主人公が改造車を乗り回してハイテンションになっていたり、銃を持って必要以上に嬉しそうにしているシーンがある。ふと、『アイアンマン』(2008年)を思い出した。ロバート・ダウニーJr.がアイアンマンのスーツ作りにひきこもって没頭しているのと同じ感じ。ヒーローというより、プラモデル作りで徹夜している高校生の感覚ですね。
最初から特殊能力を持っているヒーローより、普通の人がヒーローになるべく、必死になる姿の方が、僕は観ていて心が熱くなるが、皆さんはどうだろう。
両作品とも「いつかは自分もヒーローになれる」レベルは★★★★★(★五つが満点)。
でも夢中になりすぎて、実生活でコスプレ・ヒーローを目指さないように!(当たり前だって)
今回注目した予告編
『キック・アス』と『グリーン・ホーネット』
★『キック・アス』
監督・製作:マシュー・ヴォーン
出演:アーロン・ジョンソン、クロエ・グレース・モレッツ、ニコラス・ケイジ、
制作国:アメリカ
12月18日より公開
公式サイト:http://www.kick-ass.jp/index.html
★『グリーン・ホーネット』
監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:エヴァン・ゴールドバーグ、セス・ローゲン
出演:セス・ローゲン、ジェイ・チョウ、キャメロン・ディアス
2011年1月22日より公開
公式サイト:http://www.greenhornet.jp/