Text by 綾部歩
「シズル感」という言葉になじみがない人も多いだろう。「シズル(sizzel)」という英語が語源となっている広告業界用語で、従来は食品がとてもおいしそうに映っている様を表現する言葉だ。今では物事がリアルでビビッドである様子を表す言葉としても使われる。この言葉がふと頭をよぎるほど、映画バーレスクはシズル感が溢れる作品だった。
物語はクリスティーナ・アギレラ演じる田舎娘のアリがロサンゼルスにあるクラブ、バーレスクでいじめや恋に悩みながらも前向きに歌手への夢に向かい突き進むサクセスストーリー。話自体はよくあるシンプルなものだ。映画を見慣れた人ならすぐ次の展開が想像できてしまうだろう。
つまり、この作品に期待するべきはストーリーではない、というのが私のはっきりとした見解だ。では私の感じた「シズル感」の正体は一体何なのだろうか。
1つはクリスティーナの力強い歌声だ。特に最初のナンバー"Something`s Got A Hold On Me"の歌声は、156センチほどの華奢で小柄な姿からはイメージできないほど野太く力強い。その歌声からは「自分はプロのシンガーである」というプライドと、本映画にかける彼女の想いを強く感じた。ふと自分の腕に鳥肌が立つのをみて、心で感じる圧倒感は本物だと実感したほどだ。劇中で歌われる8曲のうち、3曲はクリスティーナ本人が作詞しているという事実からも、いかに彼女が本作に入れ込んでいるかを伺い知ることができる。
そして、もう1つ注目してもらいたいのが純粋な役柄を演じるクリスティーナの新たな一面だ。クリスティーナ・アギレラといえば、普段アーティストとしてテレビや雑誌で見せる顔は破天荒なイメージが強く、真っ赤な口紅につけまつ毛というビビッドなメイクやファッションに身を包んでいる印象がある。しかしこの作品中のクリスティーナは、ステージ以外のシーンでは純粋でかわいらしい役柄に徹している。実はプライベートはこんな感じなのかな、と思いを巡らせてしまうほど、その役柄がピタリとハマり、普段の姿とギャップがあって魅力的なのだ。特にナチュラルメイクの力強いまなざしが心に残る。男性ならきっと皆ノックアウトされてしまうだろう。
クリスティーナの圧倒的な歌唱力とあどけない役柄に徹した演技力、この二つが絶妙に相乗効果を成し「シズル感」を生み出しているのがこの作品、「バーレスク」なのだ。
実は、恥ずかしながらクリスティーナについて何も知らずにこの作品を鑑賞した私。ところが、いまや完全に彼女の魅力にメロメロだ。彼女をよく知るファンだけでなく、まだ彼女を知らない人々にクリスティーナ・アギレラという多才なアーティストの魅力を伝える作品として、是非お勧めしたい。