Text by 落合佑介
バーレスクとは、ダンスと歌、寸劇を組み合わせた女性たちによるセクシーなショーのこと。アメリカでは1920年代に広まった「大人の社交場」である。ダンサーたちはキラキラした宝石を身につけ、ランジェリーやコルセットなどの衣装に身を包み、歌やダンスを披露する。
映画の主人公は、歌手になる夢を追いかけて地方からロサンゼルスにやって来たアリ(クリスティーナ・アギレラ)。引退した歌手のテス(シェール)が経営する「バーレスク・クラブ」で働き始めたことをきっかけに、バ―レスクショーへの情熱を胸に卓越した歌唱力で成功をつかんでいくという話だ。
この作品を観て一番感じたのは、作品の要所、要所で登場する「バーレスク」の舞台のシーンの臨場感のすごさだ。まるで、自分が本当にその場に行って舞台を見ているのでは、と錯覚するほど、迫りくる勢いと立体感があった。
この迫りくる臨場感は何なのだろうか? 思えば、「シカゴ」や「ムーランルージュ」など過去の作品でも、バーレスクという世界は登場していた。しかし、いずれの作品も、バーレスクの世界を部分的に切り取ってストーリーに挿入したように感じたのに対し、本作品はバーレスクの魅力を全面に押し出している。
この「差」を生み出しているものの1つは、キャスティングだろう。これまでの作品でバーレスクで歌って踊っていた人たちは、あくまで役者だった。つまり、歌も踊りもプロではなく、作品のために役者が訓練してパフォーマンスを見せていた。しかし、今回はクリスティーナ・アギレラやシェールといった本物のプロのシンガー、なかでもグラミー賞 受賞経験のある「プロ中のプロ」が演じている。実際、映画の中でアギレラは、細く綺麗なプロポーションからは想像もつかないほどパワフルな歌声と激しいダンスを披露している。また、シェールもアギレラとは違うショービズ界の第一線で長く活躍する王者ならではの貫録を見せつけていた。この2大スターを持ってして、歌や踊りのシーンに臨場感が生まれないわけはないのだ。
もう1つは、監督のこだわりだろう。本作の監督、スティーブン・アンティンは、かつてバーレスクで働いていたことがある。バーレスクについて、「すごく特殊だけど、魅力的な世界」と描写したアンティン監督は、映画の記者会見で映画を制作した目的を「バーレスクという素晴らしい世界を世の中に紹介すること」と話していた。その監督のこだわりが、衣装、小物、メイクの全てに生かされ、「生のバーレスク」の雰囲気を創り出しているのだ。
僕自身、バーレスクという世界のことはあまり知らず、セクシーな女性の舞台ならば、ストリップのようなものかと思っていた。ところが、本作を見てバーレスクはストリップやヌードとは全く違うことをはっきりと知らされた。衣装は脱いでも、羽で出来た扇子などを使って局部や胸を巧みに隠す。下品ではなく、スタイリッシュでカッコいい。「いやらしさ」ではなく「カッコよさ」を感じる、あくまで女性のセクシーな魅力を芸術的に表現したショーなのだ。
観る者をこんな気持ちにさせるくらいなのだから、「バーレスクという素晴らしい世界を世の中に紹介したい」という監督のもくろみは見事成功した、と言えるだろう。
女性のみならず男性にも、是非ともお勧めしたい作品だ。