Text by 野口みゆき
クリスティーナ・アギレラとシェールはともにグラミー賞受賞の経験があるアメリカの歌手。生粋のエンターテイナーだ。年齢もショウビズ界でのキャリアの長さも違う2人が、歌手としてのパフォーマンスさながら歌って踊る映画が誕生した ― 『バーレスク』だ。
田舎からスターを夢みてロサンゼルスに来た主人公のアリ(クリスティーナ・アギレラ)。そこで出会ったのは、セクシーな女性ダンサーたちが夜ごとショーを繰り広げている大人のためのクラブ"バーレスク"だった。アリはそのステージに魅せられ、舞台に上がることを夢みる。今も現役のダンサーであり、クラブの経営者でもあるテス(シェール)に自分をアピールするが、なかなか取り合ってもらえない。しかし、アリには、1つ強力な武器があった。類まれな歌唱力だ。やがて主役の座を射止め、スターへと上り詰めていくアリ。ところが、クラブの経営難や、引き抜きの誘いといった難題が押し寄せ、アリそしてテスも決断をせまられることになる ――。
主人公の若い女性が洗練されたゴージャスな女性に生まれ変わる映画はよくある人気のシンデレラ・ストーリーだ。例えば、『プラダを着た悪魔』、『プリティーウーマン』『マイ・フェア・レディー』など、時代や舞台が変わっても、永遠に人気のテーマと言えるだろう。
しかし、本作『バーレスク』がこれまでの作品と違うのは、単に女の子がシンデレラになるまでの道のりが描かれているのではないこと。本作では、「シンデレラになる前の女」と「シンデレラになった後の女」が同時に描かれているのだ。
「シンデレラになる前の女」とは、もちろんアリのこと。彼女は、若さゆえの純粋さと、時に無謀にも思えるひたむきさで夢への道を切り開いていく。しかし、彼女のように若く、夢を追い求める者が陥りやすい落とし穴に一時ハマってしまう。それは、自分にとって本当の味方は誰なのか? ということを見失いかけるのだ。類まれな歌唱力を持ち、スターの階段を駆け上る彼女には、当然たくさんの人間が寄ってくる。その中で本当に自分の幸せを願っている人間と、単に道具として自分を利用しようとする人間の区別がつかなくなってしまう。まさに、「夢を叶える前の若き女」が陥りやすいウィークポイントと言えるだろう。
一方、「シンデレラになった後の女」とは、かつてクラブの大スターを誇ったダンサーであり、現在は経営者でもあるテス(シェール)だ。若き日にダンサーとしての夢を叶え、経営者としてクラブそのものも手に入れたテス。彼女はまさに「アリのその後」つまり、若い女性が夢を叶えたその後の人生と言えるだろう。
この映画ではテスのウィークポイントもしっかりと描かれている。夢を実現させ地位を手にいれた者が陥りやすいウィークポイント、それは過去の栄光に捕らわれて、周囲の変化を受け入れられなくなることだ。
かつて全盛を誇ったクラブ『バーレスク』は、今や借金が膨れ上がり、どの銀行も出資してくれないという最悪の経営難に陥っていた。クラブの共同経営者である元夫は度々助言をするが、テスは一向に耳を貸さないのだ。
この作品では「夢を叶える前の若い女性」と「夢を叶えた後の成熟した女性」のそれぞれの生き方が描かれている。若い女性の夢物語だけでもなければ、成熟した女性だけの話でもない。そして、それぞれの年代に足りないものを教えてくれる。あらゆる年代の女性に、ぜひとも観てほしい。