気ままに映画評

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ミステリーからラブ・ストーリーに昇華する『ドラゴン・タトゥーの女』

                                                 Text by 鈴木純一

ドラゴンタトゥー.JPGデヴィッド・フィンチャー監督の『ドラゴン・タトゥーの女』予告編を観て、「世界的ベストセラー三部作、完全映画化!」のテロップで「もう映画化されているよ!」と思ったのは自分だけではあるまい。

スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンが書いたミステリー小説『ミレニアム』3部作は、2009年の『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』を始めとする映画三部作としてすでに製作されている。『ドラゴン・タトゥーの女』はリメイクなのだ。自分は原作の小説を読んでいないが、オリジナル版の映画を観て、それほど面白く感じなかった。これは長い原作をすべて描ききれていないのが原因かもしれないが。というわけでフィンチャーは好きな監督だが、一抹の不安を持って観た。その結果、リメイク版は期待を(いい意味で)裏切る面白さでした。

まずオープニング・タイトル。黒い人影がうごめく不気味な映像と、レッド・ツェッペリンの曲「移民の歌」のカバーがうまく交わっている。フィンチャーはミュージック・ビデオの監督出身なので、音楽と映像を組み合わせるのは得意だ。このオープニングで観客の心をグッと掴みます。

40年前に富豪一族の娘が失踪した事件を追うというストーリーは、それほど目新しい設定ではない。しかし事件を捜査するジャーナリストと天才ハッカーを演じる2人の俳優が素晴らしい。まずは挫折したジャーナリスト、ミカエル演じているダニエル・クレイグ。ダニエルはジェームス・ボンドに扮して強いヒーローの印象がある。本作では挫折して枯れた雰囲気で、なかなかいい味を出しています。そして最も魅力を発しているのが天才ハッカーのリスベット役のルーニー・マーラだ。つらい過去を背負い、他人との触れ合いを拒絶する孤独なリスベットを見事に演じている。ルーニーのリスベットは、オリジナル版を超えていると言っても過言ではない。ルーニーは本作でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたのも納得だ。

オリジナル版とフィンチャー版を比べると、フィンチャー版ではいくつかのエピソードを刈り込んでおり、スッキリした感じがする。フィンチャー版で印象に残ったのは、ミカエルが拷問を受けるシーンで流れる曲がエンヤの「オリノコ・フロウ」という点。癒し系といわれるエンヤの曲を残酷な場面で流すフィンチャーの皮肉な演出で、不謹慎ながら笑いそうになった。

あと、終盤の展開だが、フィンチャー版はオリジナル版とはで大きく異なっている。富豪一族で起こった事件を解き明かすミステリーは、恋の物語として終わるのだ。このエンディングも含めて、深い余韻を残すフィンチャー版の方が好きです。原作を読んだ人もそうでない人も、映画館で観ていただきたい作品である。