アカデミー賞で最優秀長編ドキュメンタリー賞と最優秀オリジナル歌曲賞の2部門を受賞した「不都合な真実」。アメリカのアル・ゴア前副大統領が、地球温暖化の惨状と人類が取るべき対策を訴えるドキュメンタリー映画だ。ロングラン上映中なので、ご覧になった方もいると思う。ゴア氏が執筆した同名の書籍版もアカデミー賞受賞後に人気が再燃し、発行部数はすでに18万部を突破した。ノンフィクションとしては異例の大ヒットだという。
映画の素晴らしさや主題である環境問題についてのコメントは、テレビ報道や新聞・雑誌の記事に譲るとして、今回はゴア氏を巡るもう1つの"真実"を紹介したいと思う。
この映画が全米で公開された直後、突如「You tube」に現れた、ある動画をご存知だろうか。その名も「Al Gore's Penguin Army」。アメリカ国内ではかなり話題になった、一般投稿者によるショート・ムービーだ。
その内容は、ゴア氏を徹底的におちょくるもの。ペンギンを相手に洗脳を試みるゴア氏から始まって、「温暖化を止めるには...息をしない。ベジタリアンになる。どんなに遠くても歩く。シャワーはお湯を使わない」などという馬鹿げたメッセージで締めくくられる。全編に渡りこんな調子のバッシングやブラックジョークが満載なので、興味のある方はご覧になっていただきたい。
シロウトが作ったにしてはずいぶん出来がいいこの動画。いったい誰が作ったのだろうか?
世界中の視聴者が抱いたこの疑問に答えてくれたのが、アメリカの有名な経済情報誌「Wall Street Journal」紙だった。
同紙の取材によると、なんと黒幕は世界の石油業界を牛耳るエクソンモービル社と、世界最大の自動車メーカーの座をトヨタと競い合っているゼネラル・モーターズ社だったのだ。
巨大石油会社にとって温暖化ほど厄介な問題はない。温暖化を防ぐための対策が本格的に実施されれば、石油会社は確実に儲からなくなってしまう。事実、エクソンモービル社には、長年に渡り組織的に温暖化対策を妨害しているという疑いもある。そのために、莫大な資金を有力政治家や温暖化の影響を低く見積もる研究者などに提供していると、多くのメディアが報じている。
もちろんクリーンなイメージをもつゴア氏だって、たたけばホコリの1つや2つは出てくるだろう。でも、敵がいくらそんなことをしたところで、ゴア氏が勇気をもって告発した「不都合な真実」を消し去ることはできない。
地球が直面している危険から目を背けずに、真っ先に声を上げて世に訴える。そして、とにかく行動を起こす――。そのためには、自分の失敗や弱みを、とりあえずは棚に上げたっていいと、私は思う。
ゴア氏は、温暖化対策に消極的なアメリカや、現状維持を望む企業群に対して、今のままでは地球が滅ぶという「不都合な真実」を突きつけた。しかしそれだけではなかった。この星の住人でありながら、まるで他人事のように温暖化問題から目をそむけている我々に対してもまた、「行動を起こさないから危機が拡大しているんだよ」という「不都合な真実」を突きつけているのだ。
行動を起こした人の粗ばかりを探すような傍観者は、行動を起こした人を批判できるような立場にないと、私は思う。
巨額のマネーに目がくらみ、良心まで売り渡してしまう政治家が多いなかで、果敢に環境問題と戦うゴア氏。そして、メディアとしての本来の役割を果たそうとした「Wall Street Journal」紙。
こんな人たちがいることを知って、私の心の片すみに、キラリ☆と小さな灯が灯った。
※問題の動画と「Wall Street Journal」紙の記事は、
下記URLにて閲覧可能です。
http://online.wsj.com/public/article/SB115457177198425388-0TpYE6bU6EGvfSqtP8_hHjJJ77I_20060810.html?mod=blogs