発見!今週のキラリ☆

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Vol.6 「さらに参ぜよ三十年」 by 浅野 一郎


皆さんは"居合(いあい)"と聞いてピンときますか?
大道芸人が大根をスパッと切っている姿を思い浮かべる方もいるでしょうか...。でも、本当の居合いとは、もっと奥深いものなのです。

居合とは、戦国時代に生まれた剣術のことで、一瞬で刀を抜き、ただの一刀で敵を倒す剣技のことです。私はしばらく、居合の稽古を受けに道場に通っていました。

茶道に流派があるように、居合にも様々な流派があります。私が入門したのは「無外流」という流派でした。「無外流」とは、江戸時代に辻月丹資茂(つじげったんすけもち)が起こしたと言われ、『剣客商売』の登場人物、秋山小兵衛(こへえ)の遣う居合の流派としておなじみです。

深呼吸をし、体の中心線に沿って、ゆっくり手を刀の柄に掛ける。そして、片膝を立てながら、鞘ズレの音をさせないように静かに素早く刀を抜く。その刹那、刀身が照明の光を反射して、キラリ☆

そして型を遣った後、同じく鞘ズレの音をさせないように気を使いながら、刀の3分の1が鞘に入ったところで、今度は鞘のほうから刀を迎えにいく。さらに柄の中心が体の中心からブレないように、刀を鞘に納める。そして、倒れた敵をしばらく見つめた後、遠くの山を仰ぎ見るが如く目線を外す。

この一連の動作をいかに流麗に、力まずさばくか。居合は"静を一瞬にして動に変え、また静に戻る"武道です。外国の剣術とは異なる独自の美学を有しています。

こうした一連の型をうまく演じることができると、先生は「きれいに敵が斬れていたね」とおっしゃいます。達人のキラリ☆と光る瞳には、私の型を通じて、武士同士による真剣勝負が映っているのでしょう。

素晴らしいと思いませんか? 居合いのこだわり。どんな些細な動作にも手を抜かず、ストイックに追求する美意識。

私は優秀な映像翻訳者にも、居合いを極めた武士と同じものを感じます。1フレームのスポッティング、1文字を削ることに全精力を傾ける人―。私には、"居合道は映像翻訳に通ず"と思えてなりません。

皆さんには、居合道の座右の銘である「さらに参ぜよ三十年」という言葉を覚えてほしいと思います。
<<頂点に達したと思っても、そこで慢心してはいけない。本当の修行はそこから30年かかると思いなさい>>という意味です。
たとえばこの学校を出て10年経ち、映像翻訳の世界で"ベテラン"と呼ばれるようになったとしても、本当にこの道を極めたと言えるのは、そこから30年後だという気持ちが大切だということです。

ちなみに、居合には激しい動きこそ伴いませんが、かなりの有酸素運動なのです。最近では女性の参加者も少なくない、健康維持に効果的なスポーツであるということも、付け加えておきます。