今週のテーマは私がこよなく愛する、少し昔の海外ドラマ。最初にちょっとしたクイズに付き合ってください。次のキーワードから、このドラマのタイトルが思い浮かぶでしょうか?
赤いカーテンの部屋、"ダイアン"、ふくろう、チベット式、夢の演繹的捜査法、そして"丸太おばさん"。
ここまでで分かったあなた。すばらしい。今度ぜひご連絡ください。お茶でも飲みながらドラマの思い出話で盛り上がりましょう。この先は特に急いで読む必要はありませんよ。書いてあるのはすべて、あなたがよく知っていることですから。
チェリーパイ、ローラ・パーマー、カイル・マクラクラン、そしてデイヴィッド・リンチ。
ここまでで分からなかったあなた。うらやましい。恐らくまだご覧になったことがないということは、あの世界に初めて足を踏み入れる興奮をこれから味わえるのですね...。この先は特に急いで読む必要はありませんよ。それより、早くレンタルビデオ店に行って、店の人に尋ねてください。"すみません、『ツイン・ピークス』って置いてますか?"
アメリカ本国で1989~1991年にTV放映されるやすぐに世界中で熱狂的な人気を獲得し、90年代アメリカ文化の象徴の1つとなった伝説的ドラマ、それが『ツイン・ピークス』です。今年に入って全30エピソードがDVD化され、先月から日本語字幕版のレンタルが始まりました。
物語はアメリカ北西部にある架空の町ツイン・ピークスを舞台に、ある連続殺人事件の顛末を描いたものです。捜査の過程で明らかになる小さな田舎町の入り組んだ人間関係。若く優秀でありながら風変わりな性癖をもつFBI捜査官が犯人を追う中、事件は次第に怪奇的な様相を帯びていきます。
いわゆる"スモールタウン物"の人間ドラマを基調として、そこに推理サスペンスとオカルト要素を取り入れた重層的な作品となっているのですが、このドラマの魅力の1つに、作品全体を包み込む、ある"ムード"があります。そのムードとは、製作者独自のユーモアと世界観の反映に他なりません。
『ツイン・ピークス』の製作、原案、脚本、監督を担当しているのはデイヴィッド・リンチ。彼はこの作品について、"ダークなソープオペラを作りたかった"と語っていますが、その言葉は『ツイン・ピークス』が持つ"ムード"を簡潔に言い表していると思います。
その"ムード"を言葉で説明するのは(何といってもムードなので...)難しいのですが、たとえるなら「オー!マイキー」で戯画化されている50年代アメリカの幸せな家庭のポートレートを、ネガで見た時に感じるであろう、微妙にグロテスクな感覚です。
「ダンボ」という空飛ぶピンクの象を生み出したウォルト・ディズニーが、ある種の薬物の影響下にあったという(ウソか本当か分からない)有名なエピソードがありますが、ポップなイメージの世界が持つ二面性は、90年代以降のアメリカの映画作家に共通したテーマなのかもしれません。例えばティム・バートンやコーエン兄弟の映画がもつ"暗さ"が、常にポップな明るさと隣り合わせであるように、イメージとしての"ポップさ"は、もはやかつてのように透明なものではありえません。
『ツイン・ピークス』のもう1つの魅力は、音楽です。アンジェロ・バダラメンティによるオリジナルサウンドトラックは、50年代アメリカンポップスとモード・ジャズをアンビエント風にミックスしたような、かなりクセになる"ムード"音楽集となっています。
当時はテーマ曲のハウスミックスが出されたり、他のアーティストによるコンピレーションアルバムが発売されたりしました。日本からも、確か細野晴臣が参加してましたね。
別にパラマウントの回し者でもないのですが、だまされたと思って、お時間のある時に1話だけでも見てみてください。内容にあまり興味が持てなかったとしても、関冬美さんの今も古びない字幕を見て勉強するというウラの活用法(→キラリ☆)もありますし。
さあ、みなさんの週末の予定は決まりですね。DVDを借りて、TVの前に座って、買ってきたチェリーパイを口いっぱいに頬張って...。