Vol.15 「ヒーロー 革ジャンを着た天使」 by 藤田 彩乃
9月のテーマ:自分の生き方に多大な影響を与えたキラリ&映画
世の中に悪い人はいない。常に私はそう思っている。少なくとも私が出会った人々はみんないい人ばかりだ。自分の恵まれた環境に感謝せずにはいられない。
根っからのおっちょこちょいなので、誰かに助けられた経験はごまんとあるのだが、今回は最高にバカでラッキーな話を。
5年ほど前の話になるが、友人と2人でバイクで米アリゾナ州の国立公園に行った。果てしなく続く地平線に向かってまっすぐ伸びる道路と線路。島国日本で育った私にとっては、衝撃的な光景だった。段違いのスケールに圧倒され、感動しているうちに日が沈み始めた。
その日は地元の人も驚くくらい寒かった。私は運転していないのだが、バイクを飛ばしていると体感温度が10度は下がる。しかし、「フェニックスは暖かい」なんていう安易なイメージを信じ、トレーナーにジーンズ姿だった私。砂漠の昼と夜の温度差をすっかり忘れていた。
そんな極寒の砂漠のど真ん中で、しかも真夜中に、バイクが壊れた。元から調子が悪かったのだが、最悪のタイミングでエンジンが停止した。辺りには笑ってしまうくらい何もない。
雪国育ちの私は、寒さで口が開かないだとか、吹雪に打たれて痛いどころかかゆいなんてことには慣れている。でも、その時は寒くて立つことすらできなかった。
その数時間前、私たちはガソリンスタンドに立ち寄り、同じくバイクで旅するおじさんに「バイクの調子が悪い」と話していた。何気なく交わした会話だったが、なんとそのおじさんは、私たちを心配して後をつけてきてくれていた。本当に人の出逢いとは不思議なものだ。
震える私に自分のセーターと革ジャンを着せ、大きな手袋を貸してくれた。そして20マイル以上離れたモーテルまで私たちを運んでくれた。それも2往復。大きな背中にへばりつきながら、自分の幸運に感謝した。
作り話のようだが、おりしもその日はThanksgiving Day。近くのお店でターキーサンドを買い、おじさんと一緒に頬張った。気さくな優しい人で、いろんな話を聞かせてくれた。
恐らくおじさんと出会うことはもうないだろう。会えたとしても十分に恩を返すことはできない。私にできるのはただひとつ。今度は自分が、困っている人に力を貸すこと(もちろんこんな無茶なマネは二度としない)。自分の経験したことや人から受けた親切を無駄にせず、社会に還元していけたらいいと思う。そうやって世界が回っていけばいい。そうすれば世界は一層キラリ☆と光輝くに違いない。
※ちなみにタイトルの元ネタはダスティン・ホフマン主演の「ヒーロー 靴をなくした天使」。大好きな作品です