発見!今週のキラリ☆

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vol.80 「カメとプレステと私」 by 杉田洋子


4月のテーマ:どうぶつ
kame 003.jpg いわゆる動物好きの人に比べ、私と動物との接点は薄い。 前回の奈緒さんとは逆のタイプで、 特に毛の生えた動物となると、すっかり疎遠な人生である。

しかしそんな私にも、自身のアイコン*となるほど愛する動物がいる。
カメである。

カメとのファーストコンタクトは、確か中学2年の頃...。
我が家では数年来、子供たちが"犬や猫を買いたい!"と親に訴える日々が続いていた。
しかし、"大きな動物は死んだ時につらい"、という理由(今思えば小さな動物
に失礼な話だ)から、
その要求はもろくも却下され、姉弟は連敗の一途をたどったのである。
そんなある日、近所の祭りに出かけた父と弟が、ビニール袋をぶら下げて帰ってきた。
中にはビール瓶のふたほどの甲羅を背負った、小さなミドリガメが4匹。

むろん、私と妹の第一声は、"何でカメなのーーーー!!??"だった。
犬や猫が飼いたいのに、どうしてウロコのカメなのか。

"愛せない、、、きっと愛せない"

そんな思いが頭を巡った。

とはいえ、せっかく我が家に加わった、新たな仲間である。
これから同じ屋根の下で一緒に生活していかねばならない。

"好きにならねば...!"

そう思い直した私は、時間があれば水槽をのぞいた。

小さなカメの子供たち...。
kame 002.jpg
よく見ていると、あくびをしたり、目をこすったり、
餌をねだってジタバタしたり、まだ子供なのに手を震わせて求愛のポーズをしてみたり...
何時間見てても飽きない。私のLOVEゲージは、急速に満たされていった。

"何て愛くるしいんだ~~~~!!!!!"

以来、高校の受験勉強もほっぽり出して、カメと戯れる毎日が続いた。
朝起きてカメに挨拶し、エサの箱をちらつかせてはフェイントしてからかい、
昼間には水槽から出して日向ぼっこさせ、夜には寝顔をしばらく眺めてから
床に就いた。
一緒に布団に入ったこともある。頬ずりしてて鼻をかまれたこともある。

そんな初代カメたちも成長し、随分と大きくなった。
小さなカメにも恋しさを覚えた我々は、新メンバーの投入に踏み切ることにした。
久々に目にする小さなカメ。そのあまりの可愛さに、私たちはシェルと名付け、
いじめられないよう小さな別荘をあてがって寵愛した。

ところがある日、強力なライバルが現れる。
プレイステーションである。
ゲーマーでもないのに、初めてのFFⅦにまんまとハマってしまった私は、
ますます受験勉強をほっぽりだしてゲームにふけった。
それに伴い、後ろの水槽を振り返る頻度は急速に降下する。
気づけば、30分に1回はのぞいていたのが、数時間に1回のペースに
落ち込んでいたのである。

そしてある冬の日の夕方、ついに悲劇が起きた。
その日も私は学校から戻ると、塾に行くまでの時間をFFⅦでつぶしていた。
没頭すること数時間。キリがついて後ろを振り返り、シェルの水槽に歩み寄ると...

!!!???

シェルが力なく目を閉じ、ふわふわと浮遊している。
しかも小さな鼻孔から、血のりのようなものが露出している...。

"まさか!まさか!!ウソだよね?"

慌てて水槽に手を突っ込む私。

"アツっ!!!"

...水槽の中はお湯だった。

カメは寒さに弱い。冬は冬眠させるか、ヒーターを入れて温度を保たねばならな
い。シェルの別荘にも、もちろんヒーターがついていた。
小さい水槽用にと買った、ちょっと安物のヒーター...。
そのサーモスタットが、ものの見事に故障したのである。
水温はぬるめの風呂ほどまであがり、シェルはのぼせて鼻血を出したのだ。

掌に載せ、ゆすっても突ついてみても、シェルはピクリともしない。
私がゲームなんかしてなければ...!!!
後悔の念が怒涛のように押し寄せる。
私はシェルの亡骸を抱えて泣き崩れた。

"ごめんね、ごめんね、、、、"

母に塾なんて行けないと訴え、いつも車で迎えに来てくれる塾友達の
お母さんにも、"今日は休むので結構です"、と力なくお断りした。

しかし、母は許さなかった。

"バカなこと言ってないで早く行きなさい!"

ぴしゃりと言われて、もうめそめそ泣いてもいられなくなった私は、
寒空の下、1人バスを待った。
追い打ちをかけるような吹雪に、
"さっき車に乗っとけばよかった"という煩悩が隠しきれない。
もう何もかも悲しくて仕方ない。
泣きはらした目で塾に到着し、上の空で授業を受ける。
途中何度も泣きそうになりながら、
家に戻ると小さな紙箱にシェルの亡骸をつめた。

それ以来、プレイステーション熱は次第に冷めてゆき、
大学受験の頃には留学を夢見て勉強に没頭するようになる。
そして上京し、初めての一人暮らしをすることになった私は、
相棒のカメを飼うことにした。
しかし、このカメとの間にさらなる試練が待ち受けいていようとは、
その時はまだ知る由もなく...。

キリがないので、その話はまたいつか別の機会に。
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*友達がくれる旅行土産の80%が、世界各地のカメグッズである。
陶器やガラスの置物、ぬいぐるみ、ボディウォッシュ、ピアス、などなど...