6月のテーマ:パソコン
パソコンよ
お前をテーマにコラムを書けと言われても
何も思い浮かばない
こんなに毎日一緒にいるのに
私はまるでお前のことを知らない
朝起きて 会社に着いて 帰宅して
最初に私の人差し指が触れるのは
お前の電源ボタンなのに
朝から晩まで24/7
お前に触れないことはない
目を閉じてても探り当てられるほど
お前の体を知り尽くしてる
メーラーを立ち上げ ドングルを差し込み
プロジェクトを開いて F11を押す
流れる映像 点滅する字幕
時折スペース バックスペース
新たな息吹をウィンドウに打ち込む
カメラをつなぎ 画像を取り込み
ネットを立ち上げ ブログを更新
"あの人は最近 どうしてるだろうか"
疎遠になった知人の近況を画面で見ては
安堵と心配を繰り返す
パソコンよ
お前はまるで四次元ポケット
フォルダを開き その中のフォルダを開き
そのまた中のフォルダを開き
目当てのファイルを見つけても...
お前の素顔をじっくり眺めることはない
気付けばフォルダとショートカットまみれのお前の顔
ふと目をやれば
キーボードにたまった埃 曇るモニター
電気屋で出会ったあの日 お前はキラキラ輝いていた
詰めるだけ詰め込み 欲しいままに引き出し
お前を顧みなかった
お前と向き合うふりをして
いつもお前の先の何かを見ていた
お前がいないと生きてゆけないのに
(いや だからこそ)私のなけなしの口座には
新しいパソコンを買う資金だけは
常にストックされている
お前がいつ逝ってしまってもいいように...
嗚呼! どうか許しておくれ
薄情な私を...
今夜はお前の顔を拭いて
フォルダを片付け 素顔をじっと眺めてみよう
慈しむように 小さなマウスを包みこもう
キーボードの感触を そっと確かめながら...