発見!今週のキラリ☆

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2011年2月 アーカイブ

vol.100 「鬼の思い出」 by 野口博美


2月のテーマ:鬼

今月のテーマは「鬼」。自分で決めたテーマとはいえ、いざ書くとなると何も思い浮かばない...。悩んだあげくに誰より鬼を恐れていた人が身近にいることに思い至った。2歳年下の弟だ。

幼い頃、弟は異常に鬼を怖がっていた。当時5歳くらいだった私と3歳の彼は寝るときに指をしゃぶるクセがあったのだが、それをやめさせようと父親が強硬手段に出た。
「指しゃぶりをやめないと、鬼が来てさらわれちゃうんだぞ」と私たちの見えないところで「ほら、もうそこにいるからな」とか言いながらドンドンと足を踏み鳴らしたのだ。
そんなの信じるわけないじゃんと冷めた目で見ていた私を尻目に弟はそれを本気にし、
その日からきっぱり指しゃぶりとおさらばした。
その後、数年にわたり悪癖が直らなかった私はというと、歯列矯正をするハメになり素直さは美徳だなと今回あらためて感じた。

話がそれてしまったが、弟の鬼嫌いエピソードは他にもある。
たぶん指しゃぶり事件と同じ年の節分に、私は幼稚園で鬼のお面を作って家に持ち帰った。
しかし次の日、お面は忽然と姿を消してしまった。どこへ行ったのかと母親と探し回ったが、どうやら弟がごみ箱に捨てたらしい。
彼は決死の覚悟でお面を捨てたのだろう。当時は怒り狂ったが、親指と人差し指でお面をつまみながら、そろそろとごみ箱に近寄る彼の姿を思い浮べると微笑ましい。

鬼だけでなく、彼はあらゆるものに恐怖心を抱いていた。ディズニーランドではミッキーマウスを見て逃げまどい、東京タワーではイベントか何かでいたドラゴンボールのキャラクターに追い掛け回されて泣きわめいていた。要するに憶病者だったのだ。

そんな彼も今では立派に成長し、なんと今週末、結婚式を挙げることになった。
先を越された姉としては祝福したくもあり寂しくもあり複雑な心境だ。

姉弟ゲンカは窓をぶち割るほど激しかったし、彼を顎で使うこともあった鬼のような姉だったが、大人になってからは割と仲が良くなった。憶病さは微塵も見せなくなり、別人のようにたくましく成長した弟だが、これからもこのままいい関係でいられたらと思う。

vol.101 「"鬼"をなんという。」 by 浅川奈美


2月のテーマ:鬼

「鬼」ですか。
自分の生活の中で「鬼」を意識することなんて、まぁーない。コンビニで鬼の面と恵方巻のポスターを見つけて、「あー、そういえば節分か」ぐらいなものですよ、私と鬼の接点なんて。記憶をたどる。最近接触した鬼...。
昨年の秋、銀河劇場で観た舞台『薄桜鬼』。人気恋愛シミュレーションゲームが舞台化!大衆演劇界のプリンス、流し目王子こと早乙女太一が主演!
......。
すみません。広がりません。流し目王子って言いたかっただけです。このゲームもやったことないです。本当です。

気を取り直して、また「鬼」について考える。
「仕事の鬼」、「鬼課長」、「鬼軍曹」、「鬼将軍」、「鬼のような人」 等等。「鬼」のホンモノに出会うことはまずないものの、日本語では人の様子を表す比喩として「鬼」を用いることが多いようである。身近に思い当たる人はいないだろうか。

さらに広辞苑で「鬼」を調べてみると、固有名詞などを含めて「鬼○○」がずらーっとでてくる。ちょっとひいてしまうくらいの数だ。いくつか気になったものを挙げてみた。

【広辞苑より】
■おに‐やく【鬼役】
主人のために飲食物の毒見をする役。鬼番。
――勇敢な家臣がいい事をしているのに、なぜかとっつきにくい役職名。

■おに‐むしゃ【鬼武者】
きわめて勇猛な武者。荒武者。
――武者だけでも強そうなのに、無敵感がマンマンです。余談だが「武者頑駄無」を知っているだろうか?「武者」も負けじとすごい広がりをみせている例。

■おに‐わらわ【鬼童】(‥ワラハ)
ミノムシのような姿の童。枕草子138「使にいきける―は」
――ミノガ科のガの幼虫ですよ、ミノムシって。コレは言われて嬉しいことなのか。不明。

■おに‐ふうふ【鬼夫婦】
性格など似ない者同士の夫婦。
――使用方法がいまいち不明。と思っていたらデジタル大辞泉に、 「1 残酷で無慈悲な夫婦をののしっていう語」ってあったから、多分、今後周囲に対し使うことはない。ことを願う。

■おにのままこ【鬼の継子】
狂言の一。鬼が、夫と死別した女に会い、子をかわいがれば妻になろうといわれて子供をあやすうち、本性が出て一口に食おうとする。「鬼の養子」とも。
――食べちゃったら、絶対お嫁さんになってもらえないんだからね。ちょっと考えれば分かるよね。本能に負けるな、鬼!理性を働かせろ。

■おに‐むすめ【鬼娘】
*屍体(したい)を食うという娘。*気の強い娘。*奸悪(かんあく)な娘。*醜く恐ろしい姿の娘。
――まじで怖すぎる。ごめんなさい、許してください。

■鬼も十八、番茶も出花
鬼でも年頃になれば美しく見え、番茶も出ばなはかおりがよい。どんな女でも年頃には女らしい魅力が出るという意。
――本当だね、本当だよね。もう、屍体とか食べないようになるんだね。

■鬼瓦にも化粧
醜い容貌の者も、化粧次第で美しくなる。
――昔の人は、ひどいことを言ったものだ。もはやいつ使っていいか分からない。

■鬼を酢にして食う
恐ろしいものを何とも思わないことにいう。
――森3中もビックリの珍味!と思いきや、なるほど味のある表現だなと感心。


日本人が鬼の絵を描けと言われたら、こうだろう。マッチョなボディーにワイルドな短パン。角あり牙あり。片手に金棒。「まんが日本むかしばなし」の影響は計り知れないと思うが、老若男女、大体が同じフォルムを描くのではないだろうか。すごい知名度だ。概念的なモノに対し、ある程度共通の認識が持たれているってことは、ヤツは只者ではない。私の日常には「鬼」との接点がない!と断言していたが...。いやいやあります。きっと結構あります。

現在私は、日英映像翻訳講座と英語クリエイティブ・ライティングコースの開発をしている。日英翻訳において最もチャレンジなのは、日本人が当たり前に思い描けるもの、定訳の無いような日常的な挨拶、はっきり説明が出来ないけど習慣的に使っている言い回し、文化的要素の強い表現などを英語化していくというところだ。どう届けるか。自分の当たり前を、英語の当たり前としてどう味付けしていくか。難しい。だがそのチャレンジこそが日英翻訳の醍醐味でもある。毎週の授業では、こういう表現においても白熱したディスカッションが行われる。

「鬼ほにゃらら」の表現を聞いた時に日本人が思い描くあのニュアンスは、どう英語にしたらいいのだろう。下記は、とある辞書に出ていた例文と訳例。どうかなぁ。伝わっているかなぁ。
■ 例文:「鬼も十八、番茶も出花」というが、あの子もこのごろきれいになった。
She looks quite pretty these days. 'Sweet sixteen,' you know.

■ 例文: 来年のことを言うと鬼が笑う.
Nobody [God] knows what may happen next year.

■鬼の居ぬ間に洗濯
When the cat's away, the mice will play. 【諺】

■鬼の霍乱
the devil succumbing to sunstroke / a man of Herculean constitution falling ill.

■例文:兄は入試に合格して鬼の首を取ったように鼻高々だ。
My brother is triumphantly boasting of his success in the entrance examination.

■鬼の目にも涙
Even the hardest heart will sometimes be moved to pity.

最後に、日本を代表する、ある意味「鬼」オールスターズ総出演的なホームドラマ。
『渡る世間は鬼ばかり』
このタイトル上手く英訳できる人いないですか?

vol.102 「鬼心」 by 相原拓


2月のテーマ:鬼

どうすればトライアルに受かるのか、みなさん知りたいですよね。残念ながら簡単な答えはありませんがアドバイスならあります。字幕をたくさん見ること、英語力を上げること、日本語を磨くこと、などなど。ただ修了生のみなさんにとっては、どれも分かり切ったことでしょう。では、どうすればよいのか。僕が最近聞いたある先輩ディレクターの言葉にひとつの答えがありました。それは、「心を鬼にすること」です。

いまいちピンとこないという声が聞こえてきそうですが、具体的には翻訳原稿を見直す時に心を鬼にするということです。これが簡単そうで難しい。なぜなら自分の原稿は"我が子のようにかわいい"からではないでしょうか。僕が受講生だったころ、毎週20時間以上かけて仕上げた原稿に先生やクラスメートからするどい突っ込みが入り、その度に落ち込んでいました。基礎Iのころは特に。それが基礎IIになると徐々に免疫がついてきて、実践を修了するころにはどんなに細かい指摘でも大歓迎するようになりました。他人の視点を素直に受け入れると、自分の翻訳を客観的に見る力が身につことに気付いたからです。

先ほどの先輩の話に戻りましょう。例の言葉を初めて聞いたのはチーム翻訳の現場でした。顔合わせの時に4人の翻訳者さんに先輩はこう言いました。「心を鬼にしてお互いの原稿をチェックしてください」。ちょっと変わった指示にみんなが戸惑うなか作業は始まりました。しかし、チームが打ち解けていくうちに厳しくも建設的なフィードバックが飛び交うようになり、原稿の質は見る見る上がっていきました。その結果、1本の映画に素晴らしい字幕を付けることができたのです。

チーム翻訳を例に挙げましたが単独作業も基本的には同じだと思います。どれだけ経験を積んだプロでも一発で完璧な原稿を納品できる翻訳者はそういません。しかし、チーム翻訳でなくても周りにいる人(例えば家族やクラスメートなど)に意見をもらうことはできます。視聴者の率直な意見として取り入れて原稿を練り直していけば、質は自然と上がります。少なくとも下がることはないでしょう。

もし一発で(しかも自力で)完璧な原稿を出せる翻訳者がいるとしたら、その人は常に心を鬼にして自分の原稿と向き合っているに違いありません。トライアルに受からないと悩んでいる方がいたら次回から鬼に化けることをお勧めします。その心構えで挑戦すればきっと結果は出るはずです。