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2011年11月 アーカイブ

vol.122 「Occupy Movement」 by 藤田彩乃


11月のテーマ:仕事

史上最大とも言われる世界恐慌の真っ只中、アメリカにはとにかく仕事がない。アップル社の創業者スティーブ・ジョブズが亡くなった直後は、こんなフレーズがささやかれたほどだ。
10 years ago we had Steve Jobs, Bob Hope and Johnny Cash - Now we have no Jobs, no Hope and no Cash.

そんな中、世界各地で巻き起こっているのがOccupy Movementだ。格差社会に反発した若者たちが起こしたこの運動。 9月にNew York Cityで大規模なデモがあったのをきっかけに世界各都市に飛び火した。その数、実に82カ国95都市という。全米のメディアを賑わせ、今も様々な議論を巻き起こしているが、その中でも特に大きな問題となっているのが、学生ローンと大学の授業料の高騰だ。ご存じの方も多いと思うが、アメリカの学生の実情からご説明しよう。

現在、全米の学生ローンの借入総額は、なんと1兆ドル。全米のクレジットカードによる借金の総額をはるかに超えている。また、授業料の高騰も尋常ではない。2000年から現在までの10年で、アメリカの大学の授業料は510%も上昇している。この5年だけで考えても2倍以上だ。しかし、ここ十数年、大学進学者数はうなぎのぼり。比較的安価な短大のコースなどは満席ばかりにもかかわらず、州政府の大学機関への助成金は25%減少している。

ところで、アメリカの大学ランキングは何を基に決められているかご存知だろうか。研究成果や卒業生の進路と信じたいところだが、ランキングを左右するのは、なんと寄付金の総額。もっと言うと、大学の持っている基金残高「のみ」で決まるらしい。あのハーバード大学の基金残高は3兆5000億円だそうだ。そのため各大学の財務部門は資産運用に力をいれていて年10%以上の運用利益を上げている。

アメリカの大学卒業者の66%は平均で2万5000ドルの学生ローンを抱える。専攻や大学によっては卒業するまでに5万ドルから10万ドルの借金を抱えることも少なくない。そして、その学生ローンは、本人の就業状況に関わらず、卒業後6ヶ月以内に返済し始めなければいけない。報道ではアメリカの失業率は9%と言われているが、実際には20%を超えていると言われている。大学を卒業したばかりの若者にできるような仕事がないのだ。そこで、返済を逃れるために多くの大卒者は、大学に戻ることを余儀なくされ、さらなる学生ローンを組む。こうして、多くの学生が、一生完済できない借金地獄の波に飲まれていくのだ。

そして、もうひとつ驚きの事実が。クレジットカードの返済や住宅ローンは、破産申請をすれば、その記録を最終的には消すことができる。つまり破産してしまえば返済を免れる。しかし学生ローンはそうはいかない。学生ローンは、個人が抱える借金で唯一、破産後も取り消しできないのだ。そう法律で決められている。いったん学生ローンを抱えると、卒業できなくても何でも、一生かけて返済しなければならない。貸す側から見れば、ノーリスクで返済が保証されているようなもの。貸したもの勝ちだ。だから信用の有無にかかわらず誰にでも貸す。どこか、サブプライムローンを彷彿とさせるスキームだ。

これらの問題は言わば氷山の一角。根本的に若者が訴えているのは、世代格差だ。 世代間で豊かさに史上最大のギャップが出てきている。

アメリカ国勢調査局(US Census Bureau)の調査によると、現在65歳のアメリカ人は、現在35歳のアメリカ人の47倍も資産があるらしい。これはアメリカ史上最高の格差。具体的に言うと、現在65歳の平均個人純資産(資産総額から負債総額を差し引いた金額)は17万ドル。1984年から42%も増加している。一方、35歳の平均個人純資産はわずか3700ドル。1984年から68%も減少している。全米平均給与も、事実上この10年で横ばい。むしろ減っているくらいだ。世論調査でも半数以上の若者が、「親世代ほど経済的に豊かになれない」と答えている。「親より貧しい世代」の登場は成長を続けてきたアメリカでは初めてのことだ。

2008年以降、高級車や持ち家のために巨額のローンを組んだものの、購入時よりもその価値は下がり、途方にくれている人がごまんといる。アメリカンドリームを夢見て、いつかは自分も分け前をもらおうと必死にもがくが、結局1%の富める者の仲間入りはできない。好景気の時には、その「1%の富める者が99%の富を得る」という資本主義の構造に疑問を持たなかったが、景気低迷をきっかけに多くの若者たちがその矛盾に気づき始めたとも言えよう。

「We are the 99%」というスローガンをかかげ、世界各地に広がるOccupy Movement。格差是正を訴える若者たちの行動が世界を変えるかもしれない。いや、変わると信じたい。今後の展開に期待している。

vol.123 「スーパースター」 by 野口博美


11月のテーマ:仕事

世の中には、それはそれは多くの職種が存在する。どの仕事にも大変な面があるだろうが、知れば知るほど、その過酷さに感銘を受けるのが、私が愛してやまないアメリカのプロレス団体、WWEのスーパースター(レスラーのこと)という職業だ。

私が彼らの番組を初めて見た時の第一印象は、きらびやかなライトや花火と共に華々しく登場し、数分闘って退場する、それだけで大金をもらえるなんて楽な仕事だなといった感じだった。K-1とかの格闘技に比べたら、ちっとも痛くなさそうじゃん、とも思っていた。

しかし番組を見続けていくうち、彼らは1年のうち300日以上をアメリカだけでなく世界中を飛び回って公演を行っていることを知った。WWEはプロレスではなく、台本がある"スポーツ・エンターテインメント"なので、試合がどう展開するかも前もって決まっている。でも、地上数メートルのところに設置された金網の上から床に飛び降りたり、バカでかいハシゴでぶん殴られたりするのは、まぎれもなく生身の人間。スターたちは、命懸けで闘っているのだ。

若くして亡くなるスターも少なくない。エディ・ゲレロという皆に愛されたラテン系スター(字幕での彼の一人称は"オイラ"。珍しいですね)も38歳という若さでこの世を去った。早世するスターが多いのは、ステロイドを使用しているせいとも言われているが、厳しいスケジュールの中で体を酷使していることも関係しているのかもしれない。

最近では私のお気に入りだった長いアゴを持つカナダ出身のイケメンスター、エッジが引退してしまった。ずいぶん前に首を痛めたことが原因で、長年、体にしびれを感じていたらしい。「これ以上続けたら、歩けなくなる」と医師に宣告され、やむなく引退を決意したそうだ。体がボロボロなのに闘い続け、つらい様子などみじんも見せずに観客を楽しませてくれた彼に拍手を送りたい。彼の勇姿がもう見られないのは悲しいことだが、別の道で活躍してくれることを願っている。

何だか自分の趣味を紹介するだけになってしまったが、何と来週、WWEが日本にやってくる! しっかりチケットをゲットした私は、彼らの激闘を生で観戦するのを心待ちにしている。