12月のテーマ:サンタクロース
師走も迫り、世の中が慌しくなってきた。
今月のテーマはサンタ。もちろん、サンタクロースのことで、1年に1回、クリスマス前夜に欲しいものを持ってきてくれると言われている、とても奇特な人のことだ。皆さんは今年、サンタクロースに何をお願いしているだろう? ゲーム機かもしれないし、アクセサリーかもしれない。しかし、最低でも現時点で600万人近くの人が熱望していると思われるプレゼントがある。それは何か分かるだろうか?
唐突だが、私は今年の3月から「バリアフリー」という分野の仕事にかかわるようになった。現在は「バリアフリー」を専門で扱う事業部に籍を置いている。ご存知ない方のために、念のため「バリアフリー」の説明をしておこう。「バリアフリー」とは、視覚や聴覚にハンディキャップを持つ方たちのために、字幕や音声によるサポート情報を付与して、映像コンテンツの理解における障壁(バリア)を取り除くことだ。
その方法は大まかに分けて字幕と音声ガイドの2つ。ちなみに、字幕は主にテレビ放送用に作られるものを"クローズドキャプション=CC"、音声ガイドは"解説放送"と言われることもある。ちなみに字幕(CCも含む)は聴覚情報を補うもの(音情報を視覚化する)で、音声ガイドは視覚情報を補うためのもの(場面情報を音声で表現する)だ。
ここで、皆さんに想像してもらいたい。テレビを観ていて音が聴こえなくなる。画面では、突然、主人公が振り返る。何が原因で振り返ったのか、皆さんは疑問に思わないだろうか?または、ある映画で映像が消え、スピーカーからは延々と登場人物のセリフと効果音、もしくはBGMだけが流れてくる。どんな状況で、どんな表情で役者が演技をしているのか、皆さんは知りたいと思わないだろうか? しかし、何をどうやっても、聴こえないものが聴こえてくるはずがないし、見えないものが見えるようにはならない。これが「聴こえない」「見えない」というハンディを背負った方たちが、映像コンテンツに対して抱える現状だ。
皆さんは、言葉を使って、異文化間のコミュニケーションバリアを取り除くために、この学校で学習を続けてきたはずだ。外国語を解さない方のために、日本語字幕・吹替えを付与してコンテンツ理解を助ける、バリアフリーでやっていることと、考え方はまったく同じ。単に元の言語が日本語であるというだけで、映像翻訳とバリアフリーの違いはまったくない。バリアフリーを「日→日翻訳」とも言うのは、それが理由だ。最終的には日本語表現力で勝負が決まる、というところもまったく同じである。
私は十数年前に、"映画が好き"という理由でこの学校に入学した。その当時、私がバリアフリーのことを聞いたら、きっと、"だって日本語の番組なんでしょ"とまったく歯牙にもかけなかったに違いない。しかし、数ヵ月とはいえ、この分野に専門で関わってきた経験で、バリアフリーは映像翻訳で培ったスキルを、最大限に活かすことのできる分野だということを声を大にして言いたい。本当にチャレンジのしがいのあるものだということを分かってもらいたい。"私は英語のドラマの翻訳がしたいから"というだけで、バリアフリーをキャリアとして視野に入れないのであれば、大きな損失と言える。
この世には、映画やドラマ、音楽、スポーツ番組を楽しみたくても、それが叶わない人たちが大勢いる。"映像コンテンツの理解に困っている人たち"とは、なにも、英語作品の理解ができない人たちことだけを指すのではない。音が聴こえない(聴こえづらい)、映像が見えない(見えづらい)という視聴者のために、しっかりノウハウを体得して、映像翻訳のスキルを活かしてもらいたい。今年は何かをもらうのを期待するのではなく、字幕と音声ガイドのプレゼントができる人になってみてはどうだろう?
朝起きてテレビをつける、BluRayディスクを挿入する、すると当たり前のように字幕や音声ガイドが付いている、視聴覚に障害があるなしにかかわらず、皆が等しく映画やドラマの話題で盛り上がる。素晴らしいと思う。