3月のテーマ:応援
「クラウドファンディング」に初めて参加した。クラウドファンディングとは、インターネットを使って小額を多数の支援者から募り、アート、音楽、映画などクリエイティブなプロジェクトを実現するという、資金調達とサポーター集めの方法だ。
今回、私がサポーターとして参加した作品は、映画『ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの』。これは『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』の続編にあたる。前作の先行上映会と佐々木芽生監督のトークイベントに足を運ぶ機会があった私は、続編のプロジェクトのことを知って迷わず参加を決めた。1作目が劇場公開に至るまでの監督の話を思い出したからだ。
大きな映画会社がバックについていないインディペンデント映画を作る場合、製作費を工面することがどれほど困難か、彼女(監督)の話からリアルに伝わってきた。資金が途絶え、借金を抱えながら、約4年の歳月をかけて完成にこぎつけたそうだ。その話にショックを受けた記憶がよみがえり、普段はバーチャルなコミュニティに尻込みする私の指が、ためらいなくプロジェクトへの参加登録を行っていた。
支援といっても、主に本編の観賞券や前作のDVDなど、さまざまな特典を購入する形になっているので、純粋な寄付というスタイルではない。プロジェクトが設定した目標金額は1,000万円。支援期間は2月に終了し、合計915人が参加、 14,633,703円が集まった。寄付ではないにしても、破格の金額である。
「私は、25年間NYに住んでいるので、何でも自分1人でやり遂げることに慣れていました。人にお願いしたり、頼ったりするのが、苦手でした。今回皆さんに応援していただいて、大きな気付きを頂きました。人間は1人では生きていけない、ということ。そして人に支援していただく立場になって初めて、自分も人を支援し、誰かの、世の中の役にたてる人間になりたい、と思うようになりました」 これは監督から届いたメッセージの一部だ。私の貢献など微々たるものだが、今後もさらに多くの人とこの作品を共有できたらうれしいし、3月30日からの公開がとても待ち遠しい。
前作を簡単に紹介すると、主人公はマンハッタンの小さなアパートに住むハーブ&ドロシー夫妻。80歳を超えた2人に密着し、彼らの人生に迫るドキュメンタリー映画だ。
郵便局員の夫ハーブと図書館司書の妻ドロシーは、結婚した直後の1960年代から現代アートのコレクションを始める。彼らが作品を買う基準は2つ。自分たちの収入に見合ったもの、そしてアパートに入る大きさのものだった。当時無名だったアーティストはどんどん有名になり、夫妻のコレクションの価値も高まっていく。メディアでも取り上げられるようになり、夫妻は美術界で有名なコレクターに。30年に及ぶコレクションはアパートの部屋中いたる所にあふれかえり、2人は作品のほとんどをワシントンのナショナル・ギャラリーに寄贈することを決意する...。
アートの世界はまったくの門外漢の私だが、膨大なコレクションを1点も売らずにつつましく暮らすハーブとドロシーに感銘を受け、2人の仲睦まじい姿に頬が緩んだ。夫妻の日常を追う映像からは、監督の深い愛情と尊敬の念がにじみ出ていた。3月の柔らかい日差しのような温かい作品との出会いに感謝し、心からエールを送りたい。