発見!今週のキラリ☆

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2014年5月 アーカイブ

Vol.181「オンとオフの境目」 by藤田庸司


5月のテーマ:休み(holiday)

世間はGW真っ只中だが、フリーランスの映像翻訳者はいつも通り仕事をしている人たちが多い。携帯電話とパソコンさえあれば、大袈裟ではなく、世界中どこででも出来るのが、映像翻訳という仕事だ。旅行や帰省中でも、その気になれば移動中や深夜、早朝といった、少しの時間を見つけて作業ができる。

受講生との面談時に「将来はフリーランスとして働きたい」という声をよく聞くが、それは映像翻訳者が自分の生活スタイルや、スケジュールに合わせて仕事ができることに魅力があるからだろう。実際に盆や正月、GWなど、世間が休んでいるときに仕事を詰めて、世間が働いているときに旅行に出かけたり、趣味に興じたりするフリーランス翻訳者もいる。これだけ書けば、フリーランス翻訳者=自由奔放、何とも優雅な稼業だと思われるかもしれないが、もちろんその地位を築くには苦労が伴うし、努力や工夫も必要だ。例えば、いくら翻訳スキルが高くても、自室に篭っているだけでは、仕事にはありつけない。自ら仕事を生み出す営業術が必要だし、また単に仕事を増やせばいいというものでもなく、自分のスケジュールや目標収入に合わせて増やしていく計画性と案件管理能力が要求される。時々、共に仕事をしている翻訳者さんと話していると「この前の仕事は時給に換算すれば数百円ぐらいだったよ」という冗談交じりのボヤキを聞く。しかし、よくよく話を聞くと、よりしっかりしたスケジュール管理とワークフローで、作業効率を上げられるケースが多いように思える。そして、作業量と所用時間の関係、所要時間と報酬の関係を考えるとするならば、あとはその人の仕事に対する考え方だろう。

情報を収集しながら言葉を選び、訳文を練り上げていく翻訳作業にはある程度の時間がかかるのは仕方ない。とかく作品の世界にのめり込んでいくと時間が経つのを忘れがちになる。ドキュメンタリー番組を訳していると、テーマについて調べれば調べるほど、新たな発見が楽しくなり、気が付けば数時間経っていたりする。また、ドラマを訳していると、クライマックスなど登場人物の気持ちを表現するベストなセリフを求め、気が付けば夜が明けていたりする。翻訳は時間を掛けたければ掛けたいだけ掛けられるし、瞬時に片付けようと思えば片付けられるもの。だからこそ、楽しくもクリエイティブな時間をいかにコントロールするか? いかに自分なりの答えを導き出すか? 時間と創作の折り合いを上手くつけることが必要となってくるのだ。作品の世界に入り込むと、食事中や入浴中、寝ている間(=夢の中)ですら翻訳について考え続けていたりする。そうなってくると、もはやオン(就業)、オフ(休業)の境目は限りなく曖昧になり、究極的には生きている時間すべてが就業時間にあたると言えてしまう。

翻訳だけで生計を立てていくこと=フリーランスと捉えがちだが、実はオンとオフの境目が消えた時が、本当の意味での"フリーランス"であり、それは就業形態を示す言葉ではなく、人の生き方を示す言葉なのではないか? と考えたりする今日この頃である。

Vol.182  自問自答の「holiday」 by斉藤良太


5月のテーマ:休み(holiday)

音楽をはじめアートを趣味とする人達が社会人になると、「趣味」にかける時間は必然的に短くなっていく。現在では「GarageBand」に代表される音楽制作アプリもあり、スマホでいつでもどこでも気軽に曲が作れる道具は揃っている。しかし、さすがに音楽にかける"時間"というアプリは購入出来ない。私のように音楽を趣味にしている人間にとって「holiday」とは日常から離れ、クリエイティブな趣味にかける時間を得る事が出来るかけがえの無い時間かもしれない。

ところが、いざPCの前に座り音楽制作ソフトを立ち上げても、なかなか曲が天から降ってはこない。そこで私の場合は大抵、日常ためていたアイデアを何とか「楽曲」へと具体化させるという作業になってくる。バラバラのパズルのピースを一つひとつ根気よく組んでいくというイメージになるが、全てのピースがいつも揃っている訳ではない。欠けているピースはその場で何とか揃えて行くしかないが、その形が分かっている場合もあれば、形も色も分からない場合もある。

結果、趣味のはずの音楽制作は「holiday(休み)」とは真逆になるような「生みの苦しみ」が大半を占める作業になってしまう。誰かがもしその様子を見たら、わざわざ休みにPCの前で何をやっているのか理解不能だろう。さらに、便利な音楽制作ソフトのおかげで、アイディアのピースはほぼ無限に録りためておく事が出来るので「生みの苦しみ」に組み合わせるピースを「選択する苦しみ」が加わり、ほぼ「苦行」という状態になってしまう。

しかし、そのおかげで私の「holiday」は、自分がなぜ音楽を続けているのかと自問自答する期間になっている。そしてその自問自答を楽しんでいる自分がいる事に気づくのだ。これからも自問自答する「holiday」の数だけ、PCに保管される楽曲の数も増え続けるだろう。私は保管された楽曲のリストを見る度に、それぞれの「holiday」をきっと懐かしく思い出すに違いない。

残念ながら今年のゴールデンウイークは私用で趣味にかける時間はなかった。今後「holiday」の度に楽曲がどれだけ増えていくのか、そこで私はどんなことを表現していくのか。気になりつつも「holiday」から日常へ戻ろうと思う。

Vol.183  休日のアンテナ  by 板垣七重


5月のテーマ:休み(holiday)

休日は仕事を忘れて過ごしたい。誰しもそんな風に思っているだろう。実際に私も、今日は小難しいことは考えないでのんびりしようとか、友人との時間を楽しもうと思うことがある。ただ、映像翻訳の世界に入ってつくづく感じるのは、何ごとにもアンテナを張っておくことの大切さだ。映像翻訳者には、ドキュメンタリーやテレビ番組、映画と、どんな内容の仕事の依頼がくるか分からない。つまり、いろいろな体験や知識がいつなんどき、どんなかたちで役に立つか予測できないのだ。逆に言えば、どんな経験でも後に仕事の助けとなる可能性がある。

そう考えると、休日もうかうかしていられない。友人との待ち合わせ場所に行く途中でも、街中を見渡して新しい商品やお店、流行りを見つけたり、本屋さんに立ち寄って新書のタイトルを眺めてみたり、電車の中で他の人たちが何を話題にしているか耳を傾けたりと、情報を得ようと思えばいくらだってできる。散歩をするにも、ただぼんやりと歩くのではなく、その地域の歴史を調べてみる、最近の子どもたちの遊びを観察する、どんな花が盛りなのかを見るなど、少し意識をすることで数十分の散歩も豊かな体験になる。

その場でたまたま出会った人との交流もあるだろう。いつだったか、東京大学敷地内の三四郎池を眺めていたとき、すぐそばで硬くなったパンを鯉にあげていた小学生が教えてくれたことがある。彼によると鯉には咽頭歯という丈夫な歯があり、硬いものでも砕いて飲み込めるのだそうだ。近々鯉についてのドキュメンタリーの仕事がくる確信はないが、こういう小さな知識や経験の積み重ねは、映像翻訳者にとって無駄になることはない。

どんな体験でも実を結ぶ可能性があると考えると、思わぬアクシデントさえ貴重に思えてくる。この前の日曜日、七里ヶ浜に散歩に出かけたときだった。防波堤にすわって屋台で買った結び豆を食べていると、ふいにガサガサっと目の前で音がしたかと思うと、豆が袋ごと10メートル下の砂浜に散っていった。テレビやインターネットでも話題にされるトビの仕業だ。このとき、素の私は500円損したと嘆いたが、映像翻訳者としての私はトビの巧みな狩りを間近で体験できたことに少なからず喜びを覚えた。

もちろん、"トビの狩りを体験したから翌日から狩りの描写がうまくなる"とは言わない。けれども、自分の五感で味わった経験が言葉を生み出す創造力を刺激してくれるのは間違いない。映像翻訳者は家にこもって作業をしがち。だからこそ、休日は表に出て小さな体験をたくさんしてほしい。

第47回 『ハワイの"ローハイド"たち』

念願だった乗馬での聖なる谷ワイピオバレー散策を終え、いよいよ最大の目的地、あのNiuli'i(ニウリイ)へ向かう。

ワイピオバレーからホノカアへ戻り、再び19号線に入る。途中、ワイメアで昼食をとった。ここはパーカー牧場の中心となる町で、ステーキが絶品なのだ。かつて個人所有としては世界一の広さを誇っていたパーカー牧場は、東京23区がすっぽりと入ってしまうほどの広さ。飼育されている牛は現在、およそ26,000頭いるという。