「一つの企業や団体と長期間に渡る被雇用契約を結ばずに、「スキルに裏打ちされた独立自営の精神」に従って、自らの能力を最大限に活かせる職場を社会に広く求めることができる人材」――フリーエージェントという言葉に対する正確な定義はまだありませんが、アメリカで発表されている最新文献などを参考にした上での私の解釈です。
映像翻訳者になるということは、同時に優秀なフリーエージェントになることが要求されます。企業や団体の構成員とは本質的に異なる職業意識、対応力、生活習慣を身に付ける必要があるのです。
仕事の質や量を年々向上させていくための「スキルアップ」について言えば、大きな組織には教育係がいて、研修があって、日々の会議がある。自ら動かずとも、お膳立てが整っている場合がほとんどです。もし会社からスキルアップを求められないのなら、それは「どうぞ反復作業を繰り返して下さい。あなたには今以上のスキル
は求めません」という意味。一見ラクで効率的なように見えますが、それでは固定の歯車です。錆びついたら新品と交換される運命も覚悟しなければなりません。
一方、私の周りで活き活きと働くフリーエージョントたちは、自ら進んで学ぶことに躊躇がありません。新人のうちはもちろん、ベテランと呼ばれようと、安定収入を得て成功者と讃えられようと、新しい出会い、新しいスキル、新しい価値に常に関心を抱き、それを自分の力にしようとする努力を怠らないのです。
ではここで、あなたの「フリーエージェント指数」をチェックしてみましょう。
【問題】「今の仕事に必要だから、スキルを学んだ」。「新たなスキルを学んだら、仕事がついてきた」。両者の違いを一言で述べなさい。
(【答え】は巻末を読んで下さい)
当校の講師の多くは、翻訳・通訳・執筆業の世界を生き抜いている筋金入りのフリーエージェントです。講義が終了した後に「今日はどうでしたか?」と聞くと、受講生の訳出や鋭い質問、考えさせられた指摘などについて、140分の講義を終えたばかりとは思えないほど、いつまでも熱く語り続けます。受講生の皆さんを指導するのはもちろんのこと、同時に「自分自身のスキルの向上に、受講生との出会いを役立てているんだな」と感心します。
当校の多くの修了生は自主的な勉強会を開いたり、プロになった後も積極的にセミナーや研修会に参加しています。そんな姿を見た受講生の中には、「いつまで勉強を続ければいいの?」と思う人もいるかもしれません。でも、フリーエージェントの本質が「自ら学んで進化し備えること」だと理解できれば、納得のいく姿ではありませんか?
このようにたくましく成長し続けるフリーエージェントの先輩たちが、受講生のすぐ近くに大勢いるのです。
フリーエージェントという生き方への関心は、日本でも年々高まりつつあります。将来的には国や自治体も支援に乗り出すことでしょう。しかし、そんなものを当てにするようではフリーエージェントの名が廃(すた)ります。
私は職業人としての人生の大半がそうであったように、フリーエージェントという生き方が大いに気に入っています。自分が気に入っているから、年齢も性別も性格も背景も超えたところで、この生き方を目指す人を応援したいのです。
がんばれ!フリーエージェント!
【答え】前者は「仕事は与えられるもの」と考える人の発想。後者は「仕事は自分が創る」と考えるフリーエージェントの発想。 (了)