【written by 香村満理子(こうむら・まりこ)】「おうちごはん」が基本の出不精で、グルメでもメディア通でもないけれど、『神田グルメディア倶楽部』入部を機に食べ歩きに挑戦。美味しいものを食べて見聞を広めようと言う考えは、甘いか辛いか、しょっぱいか?
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JR神田駅東口の駅前。小さなお店が建ち並ぶガード下の一角に、細長い三角形のような形をした洋食屋がある。店内を縦に仕切り、半分が厨房、半分が8席のカウンター席となっている『美味卵家』は、その名の通り、おいしい卵が自慢のオムライス専門店だ。
遠い昔デパートのお好み食堂で、日の丸がはためくオムライスは「お子様」の定番メニューだった。そんなわけで、客はオンナコドモが主流かと思いきや、なんと店内はビジネスマン風の男性ばかり。オンナコドモの類は私ひとりで、いきなりアウェー感に襲われる。テーブルの隅に置かれたかわいいニワトリの置物に若干救われた気分で、厨房を眺めていると、ビジネスマンが多い理由が見えてきた。サービスがそこいらのファーストフード店や立ち食いそば店真っ青の速さなのだ。これなら「約束の時間まであと10分!」なんて場合にも栄養満点のオムライスがいただける。ハンバーガーよりヘルシーな気がするし、うどんや蕎麦より腹持ちがいい。サイドメニューを加えれば、かなりガッツリ食べた感があり、午後の部に向けてスタミナ補給をしておきたい若者のランチにもピッタリだろう。
イチ押しメニューはとろとろ半熟卵とデミグラスソースをたっぷりかけた700円のオムハヤシ。チーズやコロッケ、唐揚げなどのトッピングも追加できる。ケチャップがお好きなかたには千切りキャベツが添えられた昔ながらのオムライスもある。メニューには旬の食材も取り入れられ、季節ごとにバリエーションが楽しめるようだ。
ところでオムライスいえば、伊丹十三監督の映画『タンポポ』を思い出すかたも多いはず。半熟のプレーンオムレツをチキンライスの上に乗せてナイフを入れ、トロトロ&フワフワの卵があふれ出すあのシーンは感動ものだった。実はこのオムライスを作ったレストランは日本橋にあり、今も『タンポポオムライス 伊丹十三風』というメニューを用意している。しかしこちらは一人前2700円。庶民が気軽に食べに行かれる値段ではないのが残念である。
美味卵家では昼間のみテイクアウトも用意され、事前に電話で予約をしておけばアツアツのオムハヤシがアナタを待っていてくれる。美味くて速くて、お手頃価格。メディアにもたびたび取り上げられている美味卵家は間違いなく一見、いや一食の価値ありだ。
★お店情報★
店名:美味卵家(うまたまや)
ジャンル:洋食
電話番号:03-5294-1410
住所:千代田区鍛冶町2-13-24
交通手段:JR神田駅 徒歩0分
営業時間:平日11:00~15:00、 18:00~22:00、 土・祝11:00~15:30
定休日:日曜(月に1回、土日連休)
【written by 樋口孝一(ひぐち・こういち)】最後の晩餐に食べたいモノが、年を取るごとに変わっていきます。昔はグリーンカレー、最近はエノキ炒め。次は何になることやら。
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沖縄へ旅して以来、無性に沖縄料理を食べたくなることがある。久々にその衝動に駆られ、足を運んだのが「やいま」だ。「沖縄料理とインド料理」という謎の組み合わせが気になる...。
ビルの地下に降りる。入口のシーサーや海の写真に気持ちは高ぶる。店に入るとインド人の店員に案内された。早速「沖縄とインド」だ。本格インドカレーも気になるが、まずは泡盛を(笑)、とメニューに目をやると、恐らくここにしかないであろう「泡盛ラッシー」を発見。ヨーグルトの爽やかな酸味が泡盛の風味と調和している。次に、店名の由来となった「八重山」諸島ならではの「八重山かまぼこ」。ムッチリとした歯ごたえで、ピリッとした辛さがあとを引く。さらに「島らっきょう」「スヌイアンダーギー(もずくの天ぷら)」などを堪能し、締めには「ニンニク醤油そば」。八重山風の丸くてフワッとした中太の麺に、ツナと刻みネギ、そしてニンニクの醤油漬けがのった汁なし麺だ。醤油に漬かったニンニクの香ばしさが、ふとある映画を思い出させた。「ニライカナイからの手紙」である。
竹富島の風季(ふうき)は6歳。母が東京へ行くことになり、祖父(おじい)との暮らしを始める。高校卒業後、おじいの反対を押し切り、カメラマンを目指し東京へ行く決心をする。出発の日、顔を合わせようとしないおじいとの別れの挨拶代わりに、いつも食べていた「ニンニク醤油漬け」の作り方をメモして置いていく。仕事がうまくいかずに落ち込んでいた時、おじいから小包が届く。入っていたのは「ニンニク醤油漬け」だけ。無口で不器用なおじいからの「頑張れよ」というメッセージを感じた風季は、心機一転して仕事に取り組む。やがて母について知らなかった事実を知り、失意のなか竹富島へ戻った風季が、おじいと食卓を囲んでふたりでついばむのも「ニンニク醤油漬け」であった。節目節目に登場する「ニンニク醤油漬け」は、大切な人との絆を象徴している。「やいま」の「ニンニク醤油そば」を食べながら、大切な人のことを思ってみてはいかがだろう。
帰りに「サンキューね」と片言の日本語で挨拶された。「沖縄とインド」の組み合わせは謎のまま。次回はカレーも食べて、謎を解明しよう。
★お店情報★
店名:やいま
ジャンル:沖縄料理とインド料理
電話番号:03-3253-3833
住所:東京都千代田区神田紺屋町14千代田寿ビルB1
交通手段:JR神田駅より徒歩5分
営業時間:ランチタイム 11:30-14:00、夜 17:00-23:00
定休日:不定休
【written by おおひらしょうご】食う、飲む、遊ぶがモットーのダメ人間。将来の夢は主婦、もとい主夫。料理好き。
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「万惣」は老舗の高級果物店だ。創業の1846年から、神田・須田町に店を構えている。中2階と、2階にフルーツパーラーがあり、もちろんそこで果物も食べられるのだが、名物はホットケーキだ。お店の人に聞いたら、82,3年前から材料の配分を変えず、同じ味を提供しているという。
紅茶かコーヒーの付いてくるホットケーキセット(\1,150)を注文した。バターとシロップをたっぷりとぬり、ナイフを入れる。生地の外側のサクッとした食感が新鮮だ。シロップはとろりと濃く甘い。あ、甘い......シロップかけ過ぎた。余談だが、お店に行く前日にホットケーキとはどんなものだったか、予習のつもりで「森永のホットケーキ」を作って食べてみた。見た目はそっくりなのに、やはり「万惣」の味は別格。ただ、2日連続は、ちとキツい。
「万惣」のホットケーキと縁の深い人物がいる。「鬼平犯科帳」などを書いた昭和の文豪で、食通としても知られた池波正太郎だ。エッセイ「むかしの味」に、小学校2年生のとき(昭和6年)、離婚した父に初めて「万惣」に連れてきてもらった思い出が書かれている。「果物屋にホットケーキがあるの?」とたずねる正太郎少年に父は「あるどころのさわぎじゃない。万惣のホットケーキは天下一品だ」と答えた。正太郎少年の感想は、「それまで口にした、どこのホットケーキともちがっていた」というのだから、すでに食通の片鱗がうかがえる。小学校を卒業してすぐに働き始めた池波は、週に一度、「万惣」でホットケーキを食べてから、昌平橋の近くにあった「シネマ・パレス」で洋画を観るのを楽しみにしていた。シロップとバターの甘い余韻に浸りながら、スクリーンの向こうのヨーロッパやアメリカに思いをはせていたのだろうか。
晩年、池波は「万惣」でホットケーキやフルーツカクテルを食べるたびに亡くなった父の姿を思い出したという。池波も昭和が終わった翌年に亡くなった。街も人も変わっていくが、昭和の思い出を丸く焼いたような「万惣」のホットケーキの味は、いつまでも変わらない。
★お店情報★
店名:万惣フルーツパーラー
ジャンル:フルーツパーラー
電話番号:03-3254-3711
住所:千代田区神田須田町1-16-1万惣ビルM2F&2F
交通手段:JR神田駅より徒歩5分・地下鉄銀座線神田駅より徒歩2分
営業時間:M2F/11:00~20:00 2F/11:30~20:00
定休日:日曜・祝日・第三月曜
【written by 落合佑介(おちあい・ゆうすけ)】食べることは生きること」がモットー。『神田グルメディア倶楽部』に入部して、食べ歩きを何時間でも続けられる自分を発見した。食への探求心は尽きず、どこかに面白そうな店はないか、と考え日々生きている。
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今年の夏は本当に暑かった。10月になっても20℃を超える日が少なくなかったほどだ。にもかかわらず、コンビニでは9月上旬からおでんが売れていたそうだ。インターネットで調べると、気温が高くても、体感温度が下がればおでんを食べたいと思う人が多くなるらしい。確かに最近、おでんが無償に欲しくなるときがある。
おでんが出てくる映画は数多くあるが、個人的に一番好きなシーンがあるのは邦画「黄泉がえり」だ。九州阿蘇地方のある地域で突然、大勢の死者が蘇った。それも死んだ当時の姿のままで、何事もなかったかのように人々のもとへ帰ってきた。最愛の夫、兄弟、恋人、自殺してしまった同級生。人々は蘇った死者に生前伝えられなかった想いを告げ、共に時間を過ごすが、やがて死者と別れの時がやってくる。大切な人への儚く切ない想いを描いた映画だ。印象的に残ったのは主人公の平太が幼なじみの葵とおでんを食べるシーンだ。二人は「あいつさ、変な奴だったよな」と、居酒屋でおでんをつつきながら、亡くなった親友の思い出を語り合う。演技ではなく、素のようなやり取りが心に残った。心が温まる場面とおでんがマッチして記憶に残ったのだろう。
コンビニのおでんもいいが、どうせならおいしいのを食べたい。そう考えて店を探すと、おでんがメインの居酒屋「ゑ~もん」をみつけた。手作りのおでんが食べられるらしい。「おでん?ちょっとオッサン臭いよね」と入りづらいイメージがあるかもしれないが、今回行った「ゑ~もん」はお洒落な内装で、とても綺麗。個室もあって女性だけの宴会にも使えそうだ。
しかし、何と言ってもこの店の売りはで手作りの練りもの。「ゑ~もん」では注文してから店内で丁寧に焼いてくれるのだ。すり身は水産練り製品が全国一の生産量を誇る塩竈にある工場から運ばれてくる。実際食べてみると、普通のちくわよりもプリプリした食感だ。他にも、いわしのつみれ262円、大根262円、たまご210円、レタス294円を頼んでみた。レタスにはバターがのっている。出汁の味は濃厚すぎないので、いくらでもおでんが食べられそう。面白かったのは仙台麩294円、のりと麩の味が絶妙だった。フワフワした麩なのに意外とボリュームがある。一緒に食べたごはんセット300円のご飯が、おでんの出汁を使って炊いてあるのも嬉しい。チェーン店らしからぬ上品な味で芯から温まった。
★お店情報★
店名:ゑ~もん
ジャンル:おでん
電話番号:03-5298-8166
住所:〒101-0037 千代田区神田西福田町4 神田K-1ビル1F
交通手段:JR神田駅より徒歩4分 JR新日本橋駅より徒歩3分
営業時間:ランチ月~金...11:00~15:00 土...11:30~14:30
ディナー月~木...16:30~23:00 金・祝日前...16:30~翌2:00 土...17:00~23:00
定休日:日曜・祝日