観たり 聴いたり 食べ歩いたり

Chewing over TOP » 観たり 聴いたり 食べ歩いたり » 「万惣フルーツパーラー」:ホットケーキと洋画

「万惣フルーツパーラー」:ホットケーキと洋画
2010年11月12日

【written by おおひらしょうご】食う、飲む、遊ぶがモットーのダメ人間。将来の夢は主婦、もとい主夫。料理好き。
-----------------------------------------------------------------------------------------

「万惣」は老舗の高級果物店だ。創業の1846年から、神田・須田町に店を構えている。中2階と、2階にフルーツパーラーがあり、もちろんそこで果物も食べられるのだが、名物はホットケーキだ。お店の人に聞いたら、82,3年前から材料の配分を変えず、同じ味を提供しているという。

ホットケーキ.JPG紅茶かコーヒーの付いてくるホットケーキセット(\1,150)を注文した。バターとシロップをたっぷりとぬり、ナイフを入れる。生地の外側のサクッとした食感が新鮮だ。シロップはとろりと濃く甘い。あ、甘い......シロップかけ過ぎた。余談だが、お店に行く前日にホットケーキとはどんなものだったか、予習のつもりで「森永のホットケーキ」を作って食べてみた。見た目はそっくりなのに、やはり「万惣」の味は別格。ただ、2日連続は、ちとキツい。

「万惣」のホットケーキと縁の深い人物がいる。「鬼平犯科帳」などを書いた昭和の文豪で、食通としても知られた池波正太郎だ。エッセイ「むかしの味」に、小学校2年生のとき(昭和6年)、離婚した父に初めて「万惣」に連れてきてもらった思い出が書かれている。「果物屋にホットケーキがあるの?」とたずねる正太郎少年に父は「あるどころのさわぎじゃない。万惣のホットケーキは天下一品だ」と答えた。正太郎少年の感想は、「それまで口にした、どこのホットケーキともちがっていた」というのだから、すでに食通の片鱗がうかがえる。小学校を卒業してすぐに働き始めた池波は、週に一度、「万惣」でホットケーキを食べてから、昌平橋の近くにあった「シネマ・パレス」で洋画を観るのを楽しみにしていた。シロップとバターの甘い余韻に浸りながら、スクリーンの向こうのヨーロッパやアメリカに思いをはせていたのだろうか。

晩年、池波は「万惣」でホットケーキやフルーツカクテルを食べるたびに亡くなった父の姿を思い出したという。池波も昭和が終わった翌年に亡くなった。街も人も変わっていくが、昭和の思い出を丸く焼いたような「万惣」のホットケーキの味は、いつまでも変わらない。

★お店情報★
店名:万惣フルーツパーラー
ジャンル:フルーツパーラー
電話番号:03-3254-3711
住所:千代田区神田須田町1-16-1万惣ビルM2F&2F
交通手段:JR神田駅より徒歩5分・地下鉄銀座線神田駅より徒歩2分
営業時間:M2F/11:00~20:00 2F/11:30~20:00
定休日:日曜・祝日・第三月曜