明けの明星が輝く空に

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第13回:大海の"マッカチン"
2011年02月10日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】今度は『GANTZ』が映画化された。僕が原作で"おお!"と思ったのが、奈良の仏像の場面。映画にもあるらしい。ちょっと期待。
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子供の頃、夏になるとよくザリガニ取りをした。ザリガニの中でも大きくて真っ赤なものを"マッカチン"と呼んでいたが、見つけると嬉しくて大騒ぎしたものだ。ザリガニやカニという甲殻類は、カブトムシやクワガタと同じように子供に人気がある。理由は見た目が強そうなこと。ハサミという武器を持ち、硬質なヨロイに身を包んだ戦闘的なフォルムに、男の子たちはしびれてしまうのだ。

東宝映画の『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』には、エビラという大ザリガニが登場する。嵐の海から巨大なハサミが姿を見せ、船の行く手をさえぎるシーンは迫力満点。またマッカチンのように赤いエビラが、黒っぽいゴジラと組み合うと、色彩的に見事な対比がスクリーン上に現れる。それはさながら角川映画の『天と地と』で、武田軍の陣を上杉軍が突破して行くシーンを見るよう。くんずほぐれつ戦う2頭の怪獣。『天と地と』のキャッチコピーそのままに、"赤と黒のエクスタシー"が味わえるんである。

古今東西、人間の想像力が生み出してきたモンスターたちは、実在する生物の姿を元にしてきた。大蛇などのように単純に巨大化したものもあれば、龍やスフィンクスのように複数の生物の要素を取り入れたものもある。さらには、八岐大蛇や地獄の番犬ケルベロスのように、生物の姿をアレンジ(奇形化)したものもある。エビラは上記3分類のうちひとつ目の、"生物巨大化型"怪獣だ。

巨大モンスターが登場する映画のパイオニアは、『キングコング』だろう。キングコングとは、もちろん巨大なゴリラ。エビラ同様、"生物巨大化型"である。映画自体の地位は確固たるものがあるけれど、残念ながら主役のキングコングは、"カッコいい怪物・怪獣ランキング"で上位に入れそうもない。そもそもゴリラ自体が、"カッコいい動物ランキング"ではトップ争いに絡むことがない。

そういった意味では、日本のモスラも大差ない。人間の味方という役柄(?)上、人気はある。でもその姿は蛾(蝶)そのもの。むしろ弱そうだ。『ウルトラQ』に登場したモングラーはモグラだからカワイイし、ナメゴンにいたっては気持悪いという以外のなにものでもない。ナメゴンのモデルは...、そう、ナメクジなのだ!

こうして見ると、エビラは貴重な存在かもしれない。しかし、カンブリア紀にも負けない多様性を誇る日本の怪獣達の中では、エビラといえども地味な存在に追いやられてしまう。次回は、複数の生物を組み合わせて作られた"生物複合型"怪獣を取り上げよう。