明けの明星が輝く空に

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第17回:怪獣も命がけ
2011年05月26日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】"Darwin's Radio"という人類進化をテーマにした科学ミステリーを読んだ。邦題は『ダーウィンの使者』。なぜ「Radio」→「使者」なのか、いまだによくわからない・・・。
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僕にはコスプレ願望がある。例えばダースベイダー。あのマスクをかぶり長いマントを翻らせながら、"Come to the dark side of the power!"とか"As you wish."なんて台詞を言ってみたい。セリフの合間に"シュコー、ハァー"と呼吸音を入れるのは言うまでもない。

着ぐるみに入って怪獣になるのも楽しそうだ。そして撮影現場に行って暴れてみたい。地中から現れセットのビルを壊したり、ミニチュアの戦闘機を叩き落したり。ガオーと言いながら砂場で砂の山を壊していた子供のころの夢が、その時ついに実現するのである。

でも着ぐるみの中に入るのは、素人が考えるほど楽しいものではなかったらしい。実際に中に入った役者に言わせると、無理やり狭いところに閉じ込められた気分になるそうだ。というのも、一旦着ぐるみを着ると自分ではそれを脱ぐことができないから。背中にあるチャックに手が届かないのだ。なにせ怪獣の着ぐるみは分厚い。いくら関節が柔らかい人でも、まず無理だろう。しかもチャックは見えたら困るので、上から怪獣の皮をかぶせてマジックテープで止めたりもしていたらしい。脱出の得意なマジシャンならともかく、普通の人はスタッフが手伝ってくれなければ一生怪獣として生きていかなければいけなくなる。

それだけならまだしも、撮影現場では大火傷の可能性もあった。セットを爆発させたり炎上させたりするために、たくさんの火薬が使われる。怪獣は攻撃を受けた時は、体のそこら中から火花が飛び散る。時には、火花が着ぐるみの中に入ってしまう、などということもあるそうだ。演じていた役者さんが熱さにもだえ苦しむ様子は、外から見ると迫真の演技としか映らなかったというから恐ろしい。かすかに助けを求める声が着ぐるみの中から聞こえてきて、ようやくスタッフも大変な事態になっていることに気づいたという。

さらには、命を落としかねない状況に陥ったこともあるらしい。例えば、怪獣が水中に落下するシーン。ただでさえ着ぐるみは重量があるが、その中に水が入ったりすると、鉛を背負ったように動けなくなるそうだ。水中でこんな状態になったら...。まさにマジシャンでなければ脱出不可能。誰かに引っ張り上げてもらわなければ、本当に命に関わってしまう。前回紹介したゴジラ役者の中島春雄氏も溺れかかった経験があるというし、他にも意識を失い人工呼吸で助けてもらった役者の話も聞く。画面やスクリーンの中の怪獣は生きるために必死だったけれど、その中に入っていた人間も同じく必死だったとは......何とも感慨深い。