明けの明星が輝く空に

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第18回:スタジオの天井を見上げれば
2011年07月08日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】小説『ヒルクライマー』の作者は、アニメ『クラッシャージョー』を生んだ高千穂遥。早速、この小説に出てくる峠に挑んできたら、そこには「ヤマビル注意」の看板が!
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最近発見したのだが、「差」や「波」という漢字は怪獣に似ている。ツノと背中のギザギザのほか、尻尾もちゃんとあって。でも怪獣にしては尻尾が短い。やはり怪獣には立派な尻尾がなくては。その点「大」という漢字は見事だ。筆で力強く書かれた3画目は、まるでゴジラの尻尾のようではないか。

映画に登場するゴジラの尻尾は、まるで生き物のようにいつも動いている。ゴジラが歩く時も、だらしなくズルズルと引きずられることはない。もしそんな状態だったら、ゴジラの怪獣王としての威厳は一気に失せてしまうだろう。当然のことながらこの尻尾、着ぐるみ中に入っているスーツアクターでは動かすことができない。スタジオの天井から、ピアノ線で吊って操作するスタッフが必要だ。この作業は「操演」と呼ばれるが、かなりの技術が要求されたに違いない。

例えば、5~6人の操演スタッフが必要だったと言われるキングギドラ。3本の長い首は、先端にある頭部以外の場所も吊らないと、あのしなやかな動きは出せない。つまり1本の首にピアノ線が2本は必要となる。(機械仕掛けと思われる口もちゃんと開閉するので、首の動きと合わせると本物の生き物のようだ!)さらに尻尾は2本あり、巨大な翼まで持っている。翼はよくありがちな、スーツアクターが腕を入れてバッサバッサとやる形式ではなく、完全な操演によるもの。この尻尾と翼も、首と同じく常時動いている。いったいキングギドラという怪獣には、何本のピアノ線が取り付けられていたのだろうか。よくそれらが絡まらなかったものだと、思わずにはいられない。それにも増して全体で調和した動きを出すのは、かなり難しいことだったのではないだろうか。

極めつきは、ゴジラ映画『三大怪獣 地球最大の決戦』。この映画には、ゴジラの他にキングギドラとモスラ(幼虫)、ラドンという怪獣が登場する。クライマックスは、4匹全て揃っての格闘シーン。中央のキングギドラを挟む形で、画面左側にゴジラ、画面右側にラドンとモスラ。翼竜タイプのラドンは空中でホバリングしており、100パーセント操演によって動かされている。モスラはその背中に乗っているだけだが、口から糸を吐き続けている。実は、これも操演の仕事だ。いったいこのカットのために、何本のピアノ線と何人の操演スタッフが必要だったのだろう。スタッフのひとりひとりが生き物の動きを表現し、お互いのタイミングも合わせ、さらにピアノ線が絡まることがないように...。 リハーサル中、そして本番でもかなりの苦労があったことは想像に難くない。