明けの明星が輝く空に

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第22回:スペシウム光線と一本足打法
2011年11月04日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】『カウボーイ&エイリアン』をなんだかんだ観てしまった。主演のダニエル・クレイグが超カッコいい。・・・それ以上は語るまい。
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特撮ヒーローには必殺技が欠かせない。その代名詞とも言えるのが、スペシウム光線だろう。初代ウルトラマンが使ったスペシウム光線は、当時その斬新なアイデアと映像上の魅力で、誰もが知る社会的認知度の高いものとなった。そして以降のウルトラシリーズでは、それをアレンジした技が多く登場する。

例えばシリーズ6作目、『ウルトラマンタロウ』のストリーム光線。6作目ともなるとアレンジも進み、技を繰り出す手順が複雑になっている。スペシウム光線ではサッと構えて光線が発射されたのだが、ストリーム光線は構えるまでに時間をかける。まず右手を高く上げてから、力を込めた両手のこぶしを体の両脇、腰の辺りへ。空手の正拳突きを出す時の構えを思い出してもらえればいい。すると空中にたくさんの光が発生。その中心にいるタロウに集まってくる。それはまるで、拳法家が気をためているかのようだ。そしてポーズをとって光線発射。

ためた力を一気に放出するという一連の動作は、何かに似ていないだろうか。僕が思い出すのは、"世界のホームラン王"王貞治のバッティングだ。右足を静かにスーと上げ、前に踏み出すと同時にバットを鋭く振りぬく。彼の一本足打法は、スポーツの動きを芸術の域にまで高めたものだが、それは姿勢の美しさのためだけではない。リズムの良さも関係している。「スー」で力をためて、一気に「ブンッ」。この「スー」の長さが絶妙で、「スゥゥゥゥ...、ブンッ」と長すぎれば間延びした感じになる。逆に「ス、ブンッ」と短ければ拍子抜けだし、スイングから感じられる力強さも半減してしまうだろう。

ここで再びウルトラマンの話に戻るが、あっさり発射してしまうスペシウム光線は面白みにかけるか、というとそうでもない。クライマックスの場面を盛り上げるのに十分な魅力があり、ストリーム光線を見た後でもつまらないと感じることはない。構えてから怪獣を倒すまでの流れを見れば、やはり王貞治の一本足打法のようなタメがあるからだ。

ウルトラマンが腕を十字にクロスし光線発射。それを浴びた怪獣が、火花を散らして爆発。擬音語で表現すれば「サッ、ビビビー、ドッカーン」。もし「サッ、ドカーン」だけだと、今ひとつリズムが面白くない。真ん中の「ビビビー」があるからこそ、最後の「ドカーン」が生きる。そしてそれが続く時間は長すぎもせず短すぎもせず、気持がいいと感じる長さ。つまり、この「ビビビー」こそ、一本足打法で王貞治が右足を挙げている時間に相当するのだ。

短すぎればタメの効果が出ないし、かといって長すぎれば間延びした感じになってしまう。スペシウム光線の映像を編集する際には、それこそフィルムのコマ単位でカットの長さを調整していたのではないだろうか。一本足打法もコンマ何秒かの狂いで、ホームランが打てなかったこともあっただろう。特撮番組でもスポーツでも、必殺技が最大の力を発揮するためにはリズムが重要なのだ。