明けの明星が輝く空に

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第19回:アンヌへのラブレター
2011年08月08日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】映画『スーパー8』は良かった。主人公たちを見ていて、何か幸せな気分になった。見ていない人は、エンドロールをぜひ。笑えます。
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『帰ってきたウルトラマン』に、アキというヒロインが登場する。DVDで改めて見ると、彼女は本当にかわいらしく魅力的な女性だ。それなのに、あまり僕の印象には残っていない。彼女見たさに『帰ってきたウルトラマン』を見ていたという記憶もない。それはそうだろう。まだ思春期の何年も前のことである。ヒーローや怪獣こそ全て。ヒロインなんて興味なかったのだ。

それでも、あるヒロインだけは、僕の中に特別な存在として生き続けている。それに気づかされたのは、10年ほど前。書店で、ある写真集を見かけた時だ。その写真集のタイトルは『アンヌへの手紙』。アンヌとは、『ウルトラセブン』の紅一点、アンヌ隊員のことだ。

実は写真集を見つけて、ちょっと意外な感じがした。僕の中のアンヌのイメージは、"憧れのヒロイン"ではなかったからだ。どちらかというと、幼なじみの同級生。いつもそばにいて、あれやこれや口を出す、少々煙たい女の子。そんなイメージだった。

それにも関わらず、彼女は僕にとって特別なヒロインだ。その理由がわかったのは、ごく最近のこと。ヒントをくれたのは映画『SPACE BATTLE SHIPヤマト』だった。黒木メイサ演じる森雪に、異星の生命体が乗り移る場面がある。いかにもハリウッド的な映像に彼女はピッタリだったが、あの役どころはなぜ女性の登場人物でなければならなかったのだろうか。男性の登場人物に置き換えて想像してみると、その答えが見えてきた。あの場面の神秘的な雰囲気は、男優が演じても出すことはできない。女性でなければ不可能だ。

神秘的。神や超自然、人智を超えた力を感じさせるもの。古来より人間社会は、体内に生命を宿す女性に対し神秘性を感じてきたという。そして今、例えば宮崎駿作品には、神秘性を持ったヒロインが多く登場する。鳥と言葉を交わすラナ(『未来少年コナン』)や、山の動物神と暮らすサン(『もののけ姫』)。極め付きは『風の谷のナウシカ』のナウシカで、人間と対立する腐海の森の王蟲と心を通わせ、人々に生きる道筋を示してみせた。つまり彼女は、人間と人間以外のものを繋ぐ存在だったのだ。

アンヌも、そういった意味では同じだと思う。彼女は常に主人公ダンのそばにいた。ダンが宇宙人であるが故の苦悩を抱えている時、地球人の中でただ1人それに気づいていた。最終回、ダンがついに正体明かす時、その相手はアンヌだった。ダンはそのまま別れを告げ、ウルトラセブンとなって最後の戦いに挑む。彼女はそれを見守る隊員達に、あれはダンだと告げる。この時、アンヌはセブンと地球人を繋ぐ存在となった。そして同時に、セブンとテレビ画面の手前にいる僕らをも、繋いでくれたのだ。

大好きな番組の最終回は、いやでも気持が昂ぶっている。そんな時に画面の中にいたのが、ある意味最も重要な人物としての存在意義を見せたアンヌ。そうして彼女は、幼かった僕の心にしっかりと刻み込まれた。そして、これからもずっと、僕の中で生き続けることだろう。