今日から地球派「BBC EARTH」

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想像をはるかに超えた巨大な「公園」 イエローストーン(後半)
(by 松山陽子)

2010年09月28日

上質なドキュメンタリーをこよなく愛する個性あるメンバーが、英国BBCのドキュメンタリー映像として初のブルーレイ作品となった『BBC EARTH』の各シリーズを鑑賞し、独自の視点で作品の魅力や感じたことなどを綴る当コラム。
今回は松山陽子さんの「イエローストーン」の後編をお届けします。
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まずは、年間を通じて最も多くの観光客が訪れるガイザーカントリー。このエリアには間欠泉が集中していて、そこかしこに大小 様々な熱水が吹き上がっている。直径約113メートルにも及ぶ虹のようなグラデーションが美しい温泉のグランド・プリズマティック・スプリングもここにある。

8 ガイザーカントリー.jpgのサムネール画像      9 ガイザーカントリー.JPG

カリブ海より鮮やかな青色に見える中央部だが、水温は100度近い。岸に近づくにつれて温度が下がり、徐々に温度に応じた藻類やバクテリアが生息してゆく。それらが緑、黄色、黄金色と奇跡の色彩を放っているのだ。すぐそばまで行くと、辺り一面に蒸気が立ち上っていて、まるでミストサウナにいるように暑い。

次に、石灰岩が作り上げた白い段々畑のような景色が広がるマンモスカントリー。ここには警戒心の乏しいミュールジカが、ビジターセンター周辺や駐車場にまで現れるため、パークレンジャーが絶えず注意を呼びかけている。とはいえ、レンジャーから一定の距離を保つことを教えられた観光客とミュールジカは、互いの領域を侵すことなく、それぞれで楽しい時間を過ごしている。

11 マンモスカントリー.jpg   11-1 ミュールジカ.jpg

ゆったりとした時間が流れているのは、ルーズベルトカントリー。ここは知る人ぞ知るフライフィッシングのメッカ。釣人や静かな時間を好む人たちばかりなので、観光地ならではの賑やかさはどこにもない。雄大な平原には、いくつもの川が急カーブを描くように蛇行している。私たちは、ここで多くのアメリカクロクマを見かけた。ツキノワグマと同種のその危険生物は、「なんだ、人間か」といった様子でこちらを一瞥するだけ。クマさえものんびりマイペースに過ごしているようだった。

12-1 ルーズベルトカントリー.jpg     12 ルーズベルトカントリー.jpg

キャニオンカントリーは何といっても、この公園の名前の由来にもなったイエローストーン大渓谷が美しい。落差100mにも及ぶ黄色の絶壁を流れ落ちるエメラルドグリーン色のロウアー滝は、ナイアガラの滝にも劣らない大迫力だ。至近距離でその滝口を見つめていると、地に足が着いているという安心感は奪われ、思わず目まいがしてくる場所だった。

14 キャニオンカントリー.JPG    14-1 キャニオンカントリー.jpgのサムネール画像

最後に、雄大なイエローストーンレイクをたたえるレイクカントリー。かつて火山の火口だった湖には、今も温泉があちこちから湧き出ていて、湖面は独特の色合いを醸し出している。エメラルドグリーン色のところもあれば、濃紺に見えるところもあった。この湖を背景にした夜明けと夕焼けは息を飲む美しさだった。

15 レイクカントリー.jpg  15-1 レイクカントリー.jpg

この国立公園で出会った野生動物は数えきれない。せわしない様子で泳ぐビーバー、タンゴを踊っているかのように優雅に歩くツル(左下の写真)、寄り添って水浴びをするヘラジカの親子、絶壁近くに生息するプロングホーンやビッグホーンシープ(右下の写真)。彼らを見つけた時は、その場で音を立てずに静かに見守った。

17 野生のツル.jpg    20 ビッグホーンシープ.jpg

22 朝もやのアメリカバイソン.jpgしかしハイイログマ(グリズリーベア)やヘラジカの場合は至近距離でいきなり遭遇すると危険なので、常に音を立てながらトレイルを進んだ。森の奥へ進むと、あちこちに抜け落ちたワピチの角や朽ちた動物の死体があり、遠くにオオカミの群れが狩りをする声を聞いた。朝もやの中、現れたアメリカバイソン(左の写真)は震えるほど神秘的だった。

イエローストーンの大自然は私たちにとって奥が深すぎた。見どころを全制覇しようと綿密に計画を立て、森や山を分け入ったにもかかわらず、ますます魅力に取りつかれてしまった。「BBC EARTH」で紹介している『イエローストーン』では、厳しくも美しい冬の様子について描かれていた。そうなると、冬のイエローストーンもとことん知りたい。冬はやはりスノーシューをはいて、雪原を歩くしかないなと心に固く誓った。

18 ヘラジカ母子.JPG   よれよれのコヨーテ(キャンプ場にて).jpg   ワピチ(エルく).jpg

(写真左から、ヘラジカの親子、痩せたコヨーテ、ワピチ)

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【今回視聴した作品情報】
■「BBC EARTH」シリーズ『イエローストーン』■
公式サイト:http://love-bbcearth.jp/
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
購入先:http://store.sonypictures.jp/item/documentary/
「ブルーレイ デラックスBOX 2枚組」:6600円
「DVD BOX 2枚組」:4900円
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※当コラムは『BBC EARTH』全6シリーズの発売月に合わせ、月2回以上の頻度で10月まで更新していきます。

想像をはるかに超えた巨大な「公園」 イエローストーン(前編)
(by 松山陽子)

2010年09月16日

上質なドキュメンタリーをこよなく愛する個性あるメンバーが、英国BBCのドキュメンタリー映像として初のブルーレイ作品となった『BBC EARTH』の各シリーズを鑑賞し、独自の視点で作品の魅力や感じたことなどを綴る当コラム。
今回は『BBC EARTH』のシリーズ4作目「イエローストーン」を鑑賞した松山陽子さんがお届けします。
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アウトドア好きの私が初めて「イエローストーン国立公園」の写真を見たのは、2002年。ちょうどアメリカの首都、ワシントンDCでの生活を始めた年だった。市内にある国立自然史博物館を訪れ、館内にある写真展を見ていたときに、一際目を引くモノクロ写真があった。

その写真は、大地のあちこちから大量の熱水が吹き上がる不可思議な現象が収められたもので、白と黒以外の色が一切排除されているにも関わらず、その場の熱気と自然の雰囲気が色濃く映されていた。私は見たことのない自然の姿に魅了され、その日からイエローストーンを訪れるための計画を綿密に立て始めた。

そして、その念願が叶ったのは4年後の2006年夏。イエローストーン国立公園と隣接するグランドティトン国立公園を2週間かけて巡ることにした。ワシントンDCからソルトレイクシティまで飛行機で移動し、そこからは大型4WDのレンタカーを借り、約520キロの道のりを走る。日本でいうと、およそ東京から大阪までの距離だが、アメリカで暮らすうちに、隣の県に行くくらいの感覚になっていた。

00.JPG長い旅のために、4WDに我が家の使い慣れたキャンプ用品一式とハイキング用の装備を積み込み、使いやすいよう並べていく。さらに、道中にある大型スーパーに寄って、水のタンクや食料、燃料などを補充する。私と同じくアウトドア好きの夫と共に、アメリカ中の国立公園を楽しんできたいつものパターンだ。今回も準備にぬかりはない。順調に仕度を整えて、ひたすら車を走らせていくと、博物館で見たモノクロのイエローストーンが、夕日のオレンジに縁どられた姿で目の前に現れた。

四国の半分に相当する広大な"公園"は、目を見張るような大自然の連続で、「期待し過すぎてガッカリするかもしれない」という私の不安を完全に吹き飛ばした。真っ赤な夕暮れには、名もない丘が浮かびあがり、辺りには気化した熱水がモヤモヤと立ち込めていた。

yellow1.jpg     yellow2.jpg

イエローストーンと夕日。辺りには気化した熱水が立ち込めていた

yellow3.jpgのサムネール画像すぐ近くではイエローストーンに多く生息するミュールジカが草を食(は)み、道路ではアメリカバイソンが私たちの車を全く気にすることもなく、悠然と歩いていた。私たちは園内に入るやいなや目の前に現れた大自然の営みに、一瞬で心を奪われた。そして、この公園では、人間が単なる訪問者にすぎないのだと実感した。

イエローストーンは激しくお湯が吹き出る間欠泉が有名だが、見どころはそれだけではない。確かに、約1時間おきに規則正しく吹き上がる豪快な間欠泉(通称、オールドフェイスフル・ガイザー)は何度見ても飽きない。しかし、それもこの国立公園の魅力とスケールにかかれば、ほんの一部にしか過ぎない。園内には、5つのエリア(カントリーと呼ばれる)があり、それぞれ異なる側面を持っている。当然、見所もエリアごとに異なっているので、ここでぜひ各エリアの魅力を知っていただきたい。
(次回に続く)  

yellow4.jpgのサムネール画像  yellow5.JPG

道路を歩くアメリカバイソン豪快に吹き上がる間欠泉

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【今回視聴した作品情報】
■「BBC EARTH」シリーズ『イエローストーン』■
公式サイト:
http://love-bbcearth.jp/
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
購入先:
http://store.sonypictures.jp/item/documentary/
「ブルーレイ デラックスBOX 2枚組」:6600円
「DVD BOX 2枚組」:4900円
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※当コラムは『BBC EARTH』全6シリーズの発売月に合わせ、月2回以上の頻度で10月まで更新していきます。

川を超えた存在「ガンジス」のすべて(by 山本学)
2010年09月06日

上質なドキュメンタリーをこよなく愛する個性あるメンバーが、英国BBCのドキュメンタリー映像として初のブルーレイ作品となった『BBC EARTH』の各シリーズを鑑賞し、独自の視点で作品の魅力や感じたことなどを綴る当コラム。
今回は『BBC EARTH』のシリーズ3作目「ガンジス」を鑑賞した山本学さんがお届けします。
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以前、私は映画監督の原一男さんの下で映画を勉強していたことがある。その原さんの息子さんが亡くなられ、悲しみを癒すために旅をするという番組が10年以上前に放送されていたのを今でも覚えている。


その番組は原監督がガンジス川を遡りながら悲しみを和らげていくというもので、その頃から私にとってガンジス川はどこか特別な存在であり、秘密や魅力を探りたいと思っていた。

gan1.jpgそして先日、インドにあるガンジス川の成り立ちやそこに暮らす人々について詳しく語られている「BBC EARTH」の『ガンジス』を見た。


本編では、インドの暮らしやガンジス川のありのままの姿が映し出され、小さな川の集合体がガンジス川を形成していることや、その中の4つの川にヒンドゥー教の聖地が置かれていることが描かれていた。そして、4つの川の中でも海から最も遠い距離にある「タポヴァン」から流れる水は、ガンジス川の源流と考えられていて、巡礼者が訪れるヒンドゥー教の中心となっていることが詳しく紹介されていた。


gan2.jpgまた、過酷な荒涼地帯に住む動物が自然の力を利用して塩分を取るという貴重な映像や、数週間でガンジス川の年間降雨量の半分を占めるモンスーン中に、信者が川へ入り修行するも場面もあり、ガンジスがインドにとっていかに大きな存在かが分かった。特に、信者が川で修行する様子は、日本の滝に打たれる修行を思い起こさせ、彼らの信仰心や思いを身近に感じることができた。

今回『ガンジス』を視聴して、ガンジス川が大きな自然を形成していることや人間にとって神のような存在になっていることを知り、原監督が息子を亡くした悲しみを癒すためにこの地を訪れた意味が少し理解できたように思う。
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【今回視聴した作品情報】
■「BBC EARTH」シリーズ『ガンジス』■
公式サイト:http://love-bbcearth.jp/
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
購入先:http://store.sonypictures.jp/item/documentary/
「ブルーレイ デラックスBOX 2枚組」:6600円
「DVD BOX 2枚組」:4900円
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※当コラムは『BBC EARTH』全6シリーズの発売に合わせ、月2回以上の頻度で10月まで更新していきます。
※写真のクレジット
(C)BBC Worldwide Limited 2010